それでは「自由な働き方の選択肢」というのは全くの虚偽なのか。政府は何も「自由さ」を説明していないのか。
筆者が知る限りで、1つだけ「自由さ」が語られた国会審議がある。それは、
深夜でも気兼ねなく働ける自由さ、というものだ。
その国会審議を見る前に、前回記事でも取り上げた5月30日のNHKクローズアップ現代+「議論白熱! 働き方改革法案~最大の焦点“高プロ制度”の行方~」から、「評価分かれる“高プロ制度”」という絵解きをご覧いただきたい(参照:
NHKによる番組の文字起こし)。
この絵解きでは、高プロで「仕事の生産性UP!」という笑顔の「証券アナリストAさん」と、仕事に追われて疲労困憊した表情の「研究員Bさん」が描かれている。Bさんは仕事の量がどんどん増え、夜中になっても仕事が終わらず、憔悴しきっている。しかし、ここで注目したいのは、笑顔のAさんだ。
証券アナリストのAさんの4コマイラストには、こう描かれている。
(1)パソコンに向かうAさん。上司が「早く帰れよ!」と圧力。Aさんは「まだ仕事したいのに・・・」と焦っている。
(2)高プロの適用対象者となったAさん。焦る必要もなく、余裕の表情で集中してパソコンに向かっている。「やりたい時 仕事」と説明の文字。
(3)家で赤ちゃんを抱っこするAさん。「休みたい時休み」と説明の文字。
(4)スーツ姿で生き生きとした笑顔のAさん。「仕事の生産性UP!」と説明の文字。
このうち、(3)は
法の規定の説明としては間違いだ。
高プロでは、休みたいときに休めるわけではない。少なくとも、法規定上は、
そのような自由裁量は全く保障されていない。
会社の理解があれば休みたい時に休めるのだろうが、それは、
高プロでなくても今でもできることだ。労基法は1日8時間働かなければいけないと労働者に求めているわけではない。1日8時間を超えて働かせてはならないと使用者を縛っているだけだ。
ここで注目したいのは、(1)と(2)のオフィスにある時計の針だ。(1)の時計は9時を指している。夜の9時で帰宅を促されているのだろう。その次の(2)の時計の針は、よく見ると1時だ。
一方の高プロで疲労困憊しているBさんのイラストでは、1番目の時計が10時で2番目の時計が2時だ。これは夜の10時と深夜の2時だろう。
ではAさんの(2)の1時は昼の1時だろうか、それとも深夜の1時だろうか?オフィスの背景が明るいので深夜であることはイメージしにくいが、文脈的には深夜の1時だろう。「早く帰れよ!」と言われなくなったので、「まだ仕事したいのに・・・」と思っていたAさんは、気兼ねなく深夜の1時に仕事ができるようになったというわけだ。
しかし深夜の1時だ。そんな時間に、余裕の表情で集中して働き続けられるのだろうか? このNHKのイラストは、どうも政府に「忖度」したイラストのように思えてならない。