さらに「復元力」の効用は、清潔な印象を保つだけにとどまらない。
1)作業効率を良くする
2)失くし物がなくなる
3)労働時間が減る
4)利益が増える
といったプラスの波及効果が出てくるのだ。一つずつ説明しよう。
1)作業効率を良くする
例えば、洗い物も「復元力」に左右される。お客さんのテーブルに、お皿やコップが出っぱなしだったとする。次にオーダーが入り、お酒を出そうとしたら「コップがない!」、料理を出そうとしたら「お皿がない!」となる。急いで客席に行き、コップや皿を下げ、洗って拭いて……という無駄なアクションが必要になる。その場しのぎの作業に追われ、悪循環に陥ってしまう。
よしんば、客席から皿やコップを下げていても、それらを厨房に溜め込み、使った鍋やフライパンなどを洗わないで貯めていると、一人で営む飲食店の狭い厨房は汚れ物だらけになり、野菜を切るまな板を置くスペースすらなくなる。
汚れ物の隙間に包丁や調味料が隠れ、それが必要な時にすぐに見つけられない。見つけても窮屈な場所に追いやられていて、取る時に調味料をこぼしたり、あっちを向いた包丁を掴む時に指を切ってしまったり……なんてことに繋がる可能性が高まる。
調味料をこぼしたら拭く時間も奪われるし、指を切れば痛い。バンドエイドを探して貼るのも自分だ。オーダーが入ってから片付けや洗い物を始めるとしたら、料理提供に余計に時間がかかってしまう。だから、調理をしながらお客さんと会話をし、常に洗い物を進めて元の場所に早く戻す「復元力」こそが、安全と安心を高め、オーダー提供のスピードを上げ、すべての作業効率を向上させるわけだ。
2)なくし物がなくなる
例えば、ハサミを使ったとしよう。すぐに元の場所に戻さなければ、次使うときに探さねばならない。探して見つからなければ、翌日、買いに行かねばならない。買いに行けばお金がかかる。「復元力」がないまま時を経てゆくと、なくすたびに買ったハサミが狭い店内に溢れることになる。なんとマヌケな話か!
地球資源に限りがある中で、アナタのニーズ以上にハサミを独り占めしてしまうわけだ。残念ながら、ハサミは両手両足で4つ同時には使えない。使いたい時に使えるハサミは1つだけだ。その他使わないハサミのためにこの星の資源を奪うのか。
「ハサミごときで!」と嘲笑するかもしれないが、そういう人は他のモノでもきっと必要のない余計な消費をしているはずだ。常に「復元力」を持ってハサミを置く場所を決めていれば、ハサミを見失うことはない。お客さんの席の足元になくしたハサミがあるとしよう。呑んで意見の相違が出た時、お客さんがそのハサミを拾って、店主を刺すかもしれない。大切な必需品を失うことが多々あるとすれば、きっといずれは「いのち」という側面からも、「生きる」という側面からも、アナタ自身を見失うだろう。と大袈裟に書いてみた(笑)。
3)労働時間が減る
例えば、またもやハサミをなくしたとしよう。探す時間が必要になる。厨房の下を覗き、冷蔵庫の裏を覗き、すべての引き出しを探し、すべてのポケットを探し、お客さんが盗んだのではないかと疑い、探し物は永遠に続く。結局見つからず、買いに行く。
その往復の移動時間の浪費、ハサミの色や素材や大きさや値段を選ぶ時間の浪費、無駄だとは思わないか。そんな時間があるなら、昼寝したほうがいい。読書したほうがいい。ジョギングしたほうがいい。ハサミで切り絵でもするほうがいい。
「復元力」がないと、時間が奪われることになる。労働時間が増えることになる。ハサミに限ったことではない。ラストオーダーを終えてお客さんがすべて帰った後、「復元力」で常に現場復帰ができていれば片付けがラクだし、なにより時間がかからない。だから早く家に帰って寝られる。翌日仕事に来てもすぐに仕込みから始められる。そう、「復元力」は仕事の時間を減らしてくれるのだ。
4)利益が大きくなる
例えば、またもやまたもやハサミをなくしたとしよう! なくすたびにハサミを買う。1つあれば用が足りるはずなのに、いくつもいくつもハサミを購入することになる。これを世間では「コスト」という。利益は、売上からコストを引いたもの。同じ売上なら、コストが小さいほうが利益が大きくなるわけだ。
ひとり飲食店では、利益はほぼ自分の給料である。ハサミを買うたびに給料を減らしているということだ。ハサミに限ったことでない。「復元力」があれば、1つのものを長く使えて、余計なコストを使わなくていい。結果として、自分の取り分が増える。もしくは、必要以上に売上を上げることにガムシャラになる必要がなくなる。無駄にガンバルほど、いのちをすり減らすことはない。