ミレニアル世代が描く、働き方の転換期。あの弘兼憲史も激賞した『働かざる者たち』「サラリーマン文化時評」#5

ミレニアル世代がサラリーマン像を更新する

「働きアリの法則」というものがある。働きアリのうち、よく働いているアリと、普通に働いているアリと、ずっとサボっているアリの割合は、常に2:6:2になる、というものだ。この法則は大企業で働く人間にもあてまはると言われ、『働かざる者たち』の冒頭でも引用されている。  しかし、今や昭和の大企業の多くは、余剰人員を抱える余裕がなくなっている。雇用が流動的な外資系企業や若いベンチャー企業には、フリーライダーが寄生する余地はほとんどない。だからこれからの時代、働かないアリたちは、バブル世代のようにひとつの楽園に長くとどまることはできなくなるはずだ。だから『働かざる者たち』は、働き方改革の只中にある全てのサラリーマンにとって、これからの自らの働き方を考える最高の触媒になるだろう。  本作がサラリーマンの現場のリアルを描くことができたのは、作者のサレンダー橋本が現役サラリーマンだから、という要因が大きい。最近はサラリーマン生活を経たあとや、サラリーマンを続けたまま漫画家デビューする若い世代が増えている。ネットで作品を発表できる機会が増えたため、兼業しやすい環境になっているからだろう。彼らが描くサラリーマンは徹底的に等身大で、既存の働き方に対する疑問をストレートに表明する。  かつて弘兼憲史は、3年間のサラリーマン生活を経て漫画家に転じ、『島耕作』シリーズを打ち立てた。団塊世代ならではのサラリーマン観を投影させた、会社の肩書がその人の社会的価値を決める出世太閤記は、多くの支持を得たけれど、そろそろその役割を終えつつある。平成が終わる今、島耕作的価値観に囚われない新しいサラリーマンが育ちつつあるなかで、サラリーマン漫画も大きく変わろうとしている。  サレンダー橋本とミレニアル世代の漫画家たちには、現在サラリーマンが直面している大いなる転換期を組織の内側から体感し、サラリーマン漫画というジャンルを、そして日本人のサラリーマン観をアップデートし続けてほしい。 <文/真実一郎> 【真実一郎(しんじつ・いちろう)】 サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある。Twitterアカウントは「@shinjitsuichiro
サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある
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