さて、どのような選挙制度が適切なのかを論じる前に、選挙制度を決める原則から確認していきましょう。
まず、
民意を議席に変換するプロセスを通じて、必ず何らかのデフォルメが発生します。1億人の有権者の考え方を約500議席に反映させるわけですので、完全な形で議席化することは不可能です。
有権者にとって大切なことは、民意を忠実に反映させる議会構成がいいのか、それとも次の選挙まで政府(与党)に全権を委任する議会構成がいいのか、どちらかの方向性を選ぶことです。すなわち、どの程度のデフォルメならば許容できるのか、有権者が判断すべきことです。
前者は、政府与党といえども、野党や一般の有権者との丁寧な対話と合意形成がなければ、政策を実行できません。その代わり、いったん合意された政策は、様々な角度から検討された結果であるため、強力に実行され、政策に伴うマイナスの影響は小さくなり、政権交代でひっくり返される可能性もほとんどありません。
後者は、議席の多数を占める与党の力で、野党や一般の有権者との合意形成を簡略化し、スピーディに政策を実行できます。その代わり、政策実行に伴って抵抗にあったり、マイナスの影響が生じたり、政権交代によってひっくり返されたりする可能性もあります。
次に、
選挙制度は、党を選ぶことに主眼を置く制度と、人を選ぶことに主眼を置く制度に大別されます。
党に主眼を置く主な選挙制度には、比例制と小選挙区制があります。小選挙区制は、候補者名を書くため、一見すると人に主眼を置く選挙制度と思われがちですが、一選挙区には、一つの政党から一人の候補者しか立候補しないため、党の選択という観点の方が強い制度です。
一方、人に主眼を置く主な選挙制度には、大選挙区制と連記制があります。大選挙区制と中選挙区制の区別は難しいのですが、定数8~10を超えるくらいから大選挙区制と呼ばれるようです(厳密にいえば、中選挙区制は大選挙区制に含まれます)。連記制とは、有権者が1票でなく、2票以上もつ制度です。定数分だけ票をもつ制度もあれば、定数より少ない票をもつ制度もあります。例えば、定数30で定数分だけ票をもつ連記制の場合、有権者は30票をどのように投じても構いません。1人の候補に30票を入れても、2人の候補に15票ずつ入れても、30人の候補に1票ずつ入れてもいいのです。これにより、有権者は人物重視で投票できます。
これらの他にも、
選挙制度には様々な方式があり、それぞれ一長一短あります。政治学の研究者ですら、適切な選挙制度について意見が分かれますので、一般の有権者がそれぞれの選挙制度を吟味するのは困難です。
よって、
党を選ぶことを重視するのか、人を選ぶことを重視するのか、方向性について、有権者が議論し、合意することが何よりも重要になります。