「just do it」だけでも考えすぎても失敗する
――契約上は問題なかったのでしょうか?
東京都のスタートアップハブ、という制度で、弁護士さんに契約書は見ていただいていました。そもそも、自分一人でやらざるを得なかったので、契約周りはきちんとチェックしたんです。
そのおかげで、私に対しては、金銭的にあまり負担はなかったんです。展示会の出展費用も、写真展で回収することが出来ました。
契約周りを人任せにせずきちんと確認しておいて、本当に良かったと思っています。
それでも、しばらくの間、精神的なショックは大きかったです。クラウドファンディングもお返ししなければいけなかったし。
ただ、事後処理をする中でも、応援してくれる人がいたり、たくさん注文していただいていているのに「俺の分お金は返さなくていい」と言ってくれるお客様がいたり、いろんな形で暖かい言葉をかけていただきました。
どの世界でも、どんな仕事をしていても、人は大事なんだな、と。
――モックアップまで作ったので別の会社と製品化する、という考えはなかったんでしょうか?
「一緒にやりませんか」というお話はいただきました。ただ、気持ち的に、一度この会社が駄目だったから、別の会社とパートナーになって、とはならなかったんです。
もちろん、一方的に通達されたから、怒りはありましたけど、簡単に他の会社と組んで、という気持ちにならなくて。
――「今から考えれば、こうしておけばよかった」と思うことはありますか?
いっぱいあります(笑)。
私は、行動から先に入ってしまうタイプなので、パートナーを組む会社のことを、もっと知っておけばよかったな、と。
それから、ビジネスプランもいろいろ変わるものなのですが、もっと練っておくべきだったな、とも思っています。
――一番大きかった学びは何でしょうか?
起業って、お金がかかるんだな、ということですね(笑)ナントカ税とか、よくわからない税金もたくさんあるし、どんどんお金が出ていって。お金は大事です。
それから、向き不向きがはっきりしている世界だと思いました。サラリーマンと違って、とことん尖っている人もたくさんいますし。
――それはよくわかります。起業してよかったことはありますか。
起業する前は、経営コンサルタントとして働いてきましたが、実際に起業してみると、事業のことは何もわかっていなかったんだな、とわかりました。
それから、やはり持続するということはすごいんだな、と。何年もやられている中小企業の方に対しても、実感を持って尊敬の念を持つようになりました。
いろいろあったけど、すごくいい経験だったと思います。
――今までの自分の人生で、これは起業に役に立った、ということはありますか?
今も司法試験の勉強をしながら、週の半分くらいはコンサルの仕事をしているんですが、起業しているときも、コンサルティングファームからいろいろと業務提携のお話は頂いていました。それはありがたかったです。
自信がなくなることも多かったのですが、一人でもなんとかなる、ということに力づけられました。
――手に職があって良かった、ということですね。
そうですね。
――それから、なんで事業を清算してから、弁護士の道に?
起業してわかったんですが、私は経営者と言うより「専門家」や「プロフェッショナル」というものに憧れるんだな、とわかったんです。
契約周りで苦労する中で、ビジネスの知識があったり、外国語が喋れる弁護士にはきっと価値があるんだろうな、とも思って。
それで、弁護士になろうと思って、翌週に願書の締切だったので、急いで提出したら合格しました(笑)。
――最後に、後輩の起業家にメッセージをお願いします。
行動と考えることのバランスが大事だと思います。私は行動が先になってしまうタイプですが、考えすぎて失敗する人もたくさん見てきました。
もし自分が行動するタイプなら、一歩下がって考えられる人をパートナーにしたり、そういう人を含めたチームを作る、というのが大事なのではないでしょうか。
栄光なき起業家の教え #1
●何が起こるかわからない。契約はしっかり確認しておこう
●自分の弱みを補えるパートナーを見つけよう
●起業にはお金がかかる!手に職をつけておこう
◆新連載「栄光なき起業家たち」#1
<文/遠藤結万 Twitter ID:
@yumaendo>
えんどう・ゆうま●早稲田大学卒業後、グーグル株式会社(現グーグル合同会社)に入社。中小企業向けセールスとアジア太平洋地域の分析を担当。退社後、スパーク株式会社を設立し、インハウス化やマーケティング戦略支援、マーケティング教育などを手がける。デジタルマーケティングについてのブログ「
エッセンシャル・デジタル・マーケティング」を運営中。著書に『
世界基準で学べる エッセンシャル・デジタルマーケティング』(技術評論社)