裁量労働制の拡大に向けた政府の再挑戦が始動。結論ありきを許すな

政策誘導的な調査は許されない

 その点で注目されるのは、9月20日の第1回検討会において、労働側の委員から「政策誘導するような質問はやめるべきだ」との意見が出たことだ。9月20日の日本経済新聞電子版「裁量性の調査手法議論 データ問題受け、専門家検討会」で、報じられている。傍聴した方によると、連合総研の小島茂委員の発言だという。  第1回検討会では、資料3「裁量労働制に関するこれまでの調査について」において、異常値が問題となった平成25年度労働時間等総合実態調査(厚生労働省が実施)と、厚生労働省の要請を受けてJILPT(労働政策研究・研修機構)が実施した「裁量労働制の労働時間制度に関する調査」(事業場調査結果は調査シリーズNo.124、労働者調査結果は調査シリーズNo.125)の概要が紹介された。  小島委員が問題にしたのは、そのうちJILPTの労働者調査のQ30とQ31に政策誘導的な設問があったことだ。  このうちQ30は、現行の裁量労働制の対象業務の範囲について、「狭い」「現行制度でよい」「広い」「範囲が不明確」の4択で選ばせたのち、「狭い」と「範囲が不明確」と答えた者のみに、付問でさらに詳細に尋ねたもので、これについては事務局である厚生労働省側から一応の回答があったものの、Q31についてはどうやら回答はなかった模様だ。Q31は現在の裁量労働制について「今のままでよい」「変えたほうがよい」の二択で答えさせたものであり、「変えたほうがよい」には「具体的にどのような変更なら問題がないとお考えですか」と問う付問がついているものだった。  Q30は裁量労働制の拡大に向けて、Q31は高度プロフェッショナル制度の創設に向けて、政策誘導的に設けられた設問である疑いが濃い。JILPTは独立行政法人の調査研究機関であり厚生労働省からの要請調査であるとはいえ他の設問はよく練られた設問が並んでいるが、それらと比べてこのQ30とQ31は明らかに異質である。  このうちQ31の設問については、東京新聞が4月17日の「こちら特報部:『残業代ゼロ』も導入ありき? 厚労省調査で裁量労働維持7割」(橋本誠、石井紀代美)において、政策誘導的な設問であったことを指摘している。記事では厚生労働省にも取材を行っているが、厚生労働省からの納得できるような返答は掲載されていない。  筆者はこの政策誘導的な設問について、詳しい解説記事を4月24日に公開しているが(「『導入ありき』で意図的にゆがめられた設問により、高プロへのニーズが主張されていたことが判明」–Yahoo!ニュース 個人)、おそらく政府は、労働時間規制の適用除外制度である高度プロフェッショナル制度について、労働者の側にそれを求める「ニーズ」があるとデータで示したいがために、「結論ありき」の設問を無理やり入れ込んだのだろう。  その目論見は東京新聞の指摘により挫折したのだが、今後行う実態調査において、そのような政策誘導的な設問を設けてはならないことは、改めてこの検討会の共通認識とされなければならない。そのためには、Q31の政策誘導的な設問についても、なぜそのような設問が設けられたのか、第2回検討会において事務局から文書を伴って適切に経緯が説明されるべきだ。
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裁量労働制の労働時間に関する調査結果を不提示だった問題
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