大組織ほど有利にできている日本の「選挙運動」ルール<民意をデフォルメする国会5重の壁・第2回>

選挙演説イメージ

imacoconut / PIXTA(ピクスタ)

「選挙運動」とはなにか?

 選挙運動とは、特定の候補者を当選させるために、投票を呼びかけたり、有利にしたりする活動のことです。簡単に言えば、候補者への投票を呼びかける行為です。選挙運動は、原則として禁止されていて、選挙運動期間のみ認められています。  一方、政治活動とは、選挙運動を除く、政治上の目的達成を目指すあらゆる活動のことです。簡単に言えば、支持者を増やす行為です。政治活動は、原則として自由で、選挙運動期間のみ一定の制限を受けます。  選挙運動を規定する公職選挙法は、選挙運動の方法や量を制限しています。なぜならば、制限しないと、候補者の資金や動員できる人数で、当選者が左右されてしまいがちだからです。制限をしなければ、おカネ持ちの候補者が、有権者におカネを渡して投票してもらったり、ご馳走を提供して投票してもらったり、たくさんの街宣車を用意してあらゆる場所で宣伝したりすることができ、社会を良くするという選挙の目的と違う基準で、議員が選ばれてしまいかねないからです。  国政選挙での主要な運動方法には、公営掲示板でのポスター、有権者に郵送する公選ハガキ、個人演説会の開催、有権者に配布するチラシ、幕間(まくあい)演説、街頭での演説、街宣車による名前の連呼、電話での投票依頼、インターネットでの呼びかけ、マスメディアの利用(選挙公報・政見放送・選挙広告等)があります。

「公選ハガキ」と「幕間演説」

 これらの運動は、不特定の有権者へ呼びかける方法と、特定の有権者へ呼びかける方法に大別されます。多くは前者ですが、公選ハガキ幕間演説は実質的に後者となります。  公選ハガキとは、有権者へ投票を呼びかけるハガキについて、一定枚数について公費で郵送できるものです。衆議院の選挙区であれば、1候補者につき35,000枚まで出すことができます。ただ、印刷費は自費負担となります。  この公選ハガキを出すには、受取人となる有権者の名簿を、選挙期間の前から用意する必要があります。選挙管理委員会で登録有権者の名簿を見て送ることもできますが、現実的ではありません。ランダムにハガキを送っても効果はタカが知れていますし、送付した35,000人がすべて投票してくれたとしても、一般的な衆議院選挙での当選ライン10万人には足りません。  よって、公選ハガキは、候補者のもつ特定の有権者名簿のなかから、つながりの薄い支持者に対し、念押しの投票依頼として送付するのが、もっぱらの使われ方です。35,000人以上の名簿をもたない候補者は、たいていの場合、公選ハガキを持て余してしまいます。  幕間演説とは、企業や団体、集会等を訪ねたとき、偶然そこに居合わせた有権者に対し投票を依頼するものです。実際には、企業や団体の幹部、集会(選挙運動とは異なる名目)の主催者等が社員や会員等を集め、そこに候補者を呼ぶ形式で行われるのが通常です。しばしば、テレビニュースで、候補者が企業回りをしたり、社屋の前で社員を集めて演説したりするシーンが報じられます。  よって、幕間演説も企業や団体の構成員、集会の参加者という特定の有権者に投票を呼びかける選挙運動です。企業等の幹部が支持者でなければ、候補者が訪問しても挨拶はおろか、門前払いされるのがオチです。
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大組織が背後にあれば有利になる理由
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