大組織ほど有利にできている日本の「選挙運動」ルール<民意をデフォルメする国会5重の壁・第2回>

大組織と選挙運動の関係

 公選ハガキと幕間演説は、大きな組織がバックについていれば、簡単に対応可能で、効果的です。大きな政党であれば、地方議員の支持者名簿を使って公選ハガキを送付し、地方議員の支持者の企業や団体等で幕間演説すればいいのです。業界団体や労働組合、宗教団体など結束力の強い組織がバックについていても同じです。公選ハガキには、地方議員や企業、団体等の支持を併記しておけば、より効果的でしょう。幕間演説で、企業等の幹部が社員等へ投票をよびかけることも効果的です。  そして、他の選挙運動も、公選ハガキと幕間演説ほどではありませんが、大組織がバックにいればスムーズに実行できます。  候補者ポスターは、衆議院と参議院の選挙区の場合、自治体の設置する公営掲示板に掲示します。公共施設や公園など、人目につきやすい場所に設置されるため、候補者について不特定多数の有権者に伝える効果があります。  組織的な支援のない候補者の場合、すべての公営掲示板にポスターを貼るのは、容易でありません。選挙区ごとに公営掲示板の数が異なるので、一概に言えませんが、例えば500か所に掲示板があるとすれば、そこに貼るだけの人員を動員しなければなりません。  大きな組織があれば、選挙区内の各地のメンバーに予めポスターを送付し、選挙開始と同時に、瞬く間に貼ってしまうことも簡単です。  チラシは、選挙管理委員会から交付される証書(シール)を、配布するチラシに予め貼らなければなりません。証書は、選挙期間初日の立候補手続時に選挙管理委員会から交付されます。衆議院小選挙区では、70,000枚のチラシを配布できます。配布方法は、街頭演説の場所、個人演説会の会場、選挙事務所、新聞折込みの4方法のみです。ポスティングや演説していない場所での配布は、認められていません。  組織的な支援のない候補者の場合、多数の証書をチラシに貼るのが容易でありません。立候補手続を済ませ、街頭演説の場でチラシを配ろうと思っても、証書を貼ってなければ配れないのです。  これも組織的な支援があれば、初日の午前中に証書を貼る運動員を動員してもらい、あっという間に貼ってしまい、街頭でチラシを配れます。  個人演説会は、有権者を集めて、候補者の考え方や政策をしっかり伝えられる機会になります。政策や弁論に自信があれば、知名度を補う機会にもなります。有権者にとっても、候補者をしっかりと吟味できます。個人演説会は、民間施設だけでなく、公共施設でも開催できます。  問題は、どうやって個人演説会に聴衆を集めるかです。選挙ポスターや公選ハガキ、街頭演説、街宣車での連呼、電話、インターネットで伝えることは、問題ありません。ところが、それ以外の方法では違法になります。例えば、演説会の案内のポスティング、一軒ずつ訪ねてのお知らせ、道行く人々への案内チラシの配布、電子メールでの一斉送付、みんな選挙違反です。  そのため、組織的な支援のない候補者の場合、個人演説会に有権者を集めるのが容易でありません。集められなければ、話を聴いてもらうことすらできません。  一方、大組織に支えられる候補者であれば、組織メンバーが家族・友人・知人を連れて、個人演説会の聴衆を集めることができます。また、社長や上司に言われれば、立場の弱い社員は、演説会に行かざるを得ないでしょう。  電話での投票依頼は、実質的に無制限となっています。電話帳を使って、無差別にかけてもいいし、何本の電話回線を使ってもいいし、投票依頼をしても演説会の告知をしてもいいのです。朝でも夜でもできます。  とはいえ、組織的な支援のない候補者の場合、電話かけをするスタッフを集めるのが容易でありませんし、効果も低くなりがちです。選挙運動の電話かけは、単調ながら、無思慮な対応によるストレスが強く、相手反応を探ることも求められる(〇×△などと支持の度合を評価します)ため、簡単ではありません。選挙事務所にボランティアがたくさん集まったとしても、電話かけを希望する人は少ないのです。  その点、選挙に慣れている大組織には、電話かけに熟練した人が多く、電話センターを設けるところもあるくらいです。電話かけも、電話帳に基づく無差別なものより、支持者名簿にかける方が効果的と言われます。例えば、地方議員や組織の提供した名簿に基づき、「〇〇議員(〇〇社)のご紹介で電話しております。××候補に一票をよろしくお願いします」と電話すれば、有権者にとっても理解しやすいでしょう。
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民意をデフォルメする選挙運動のルール
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