以上、見分の限りの出来事を並べてみたが、ここから3つのことが推測することができる。
まず第一に、これらの媒体及びその媒体で展開される論考を主張する者たちは森友・加計事件は朝日新聞の捏造した事件だという印象を作り出そうとしているという点だ。
朝日新聞に提訴された小川榮太郎氏の本の題名が如実にそれを示している。「従軍慰安婦問題は朝日新聞の捏造」とした杉田水脈議員らの言動はある程度の効果をあげ、現在に至ってもそうと信じている人を時折、見かける。
第二に、自民党総裁選後の憲法改正を睨んで改正に反対する学者などをあらかじめ叩いておこうとする意図を感じるという点。
そして第三の目的は、安倍支持のムード作りがあるだろう。書籍、雑誌の新聞広告は、内容を読まないまま心象形成をする人が多い。嫌韓本、反中本は書店の平台に並んでいるだけで、一般的な反感と偏見を形成した様子が見てとれるのだが、同じような心象形成を狙って野党非難、朝日新聞攻撃、安倍晋三礼賛が繰り返されている。
書籍、雑誌の広告と書店の平台は安倍政権を強く支持する人々の「主戦場」になっていると言っていいだろう。
NHKを人事で、民放については、放送法をたてにとった圧力で抑え込み、朝日新聞には「捏造」の汚名を着せる安倍政権のやり方を揶揄して緩慢なクー・デターすなわち「茹で蛙クー・デター」と呼ぶことがある。そのひそみに倣えば、現在、SNSと連動するかたちで書店の店頭で起きていることは、戦後の良識と常識に対する内戦であると言える。
新潮社は『新潮45』の休刊を決定したが、今後も雑誌、書籍を利用した戦後民主主義に対する攻撃はかたちを変えて続くであろうことは間違いない。
<文/中沢けい>
なかざわけい●小説家、法政大学教授。