元トラックドライバーが解説する「過積載トラック」の危険性と、危険なのになくならない理由

過積載トラックで何が起きているか?

 トラックへの積載物には、幅、重量、高さ、長さなどの最高限度が細かく決められている。その中で、最も守られないのも、やはり重さ。いわゆる「過積載」だ。冒頭でも紹介した今回の事故で、トレーラーが横転した大きな原因の1つとされているのも、この過積載とされている。  過積載したトラックに乗ると、まず感じるのは「制動力の低下」だ。  制動力とは、クルマが止まるまでにかかる距離のこと。トラックの場合、例えば、定量を積載した10トン車の時速80キロでの制動距離は、平均50.3m。が、この積載量を80%オーバーすると、制動距離は平均70.3mと、約20mも長くなる。  こうしたメカニズムは、ほとんどのトラックドライバーが理解しているはずなのだが、このプール1本分の制動距離の差を心から痛感できるのは、残念なことに、たいてい急ブレーキをめいっぱい踏み込まざるを得ない状況に陥った「その瞬間」でしかない。  過積載でもう1つ怖いのは、バランスが極端に不安定になることだ。  過積載をすると、荷物の量が増えるがゆえに、積み荷の高さも比例して高くなることが多い。そうすると必然的に重心の位置も高くなり、荷崩れを起こしやすくなったり、クルマそのもののコントロールができなくなったりするため、結果、その反動で横転するリスクが高まるのだ。  中でも今回事故を起こした「トレーラー」というトラックは、バランスを保つことが難しい乗り物だ。  性質についてはこちらも次回詳しく紹介するが、このトレーラーは、前後の車体が連結されているだけなので、バランスを崩したトレーラーの内輪が浮き上がってしまっても、運転席側にその異常が即座に伝わらず、危険回避の対処が遅れてしまい、頻繁に横転事故を起こす。  国土交通省の調べでは、海上コンテナを積んだトレーラーの事故の中で、「横転・転落」を占める割合は、全体の約40%と極めて高く、一般トラックの約9%に比べると、その数字の異常さが分かる。にも関わらず、運搬後にトレーラー部分を切り離せるなど、低コストで大量の荷物を運べる構造をしているがゆえ、このトレーラーが最も過積載されやすいトラックの1つとなっていることは、何とも皮肉な話である。  同省が発表した「大型車の道路に与える影響」によると、全交通の0.3%の過積載の大型車両が、道路橋の劣化に与える影響の約9割を引き起こしているという。  国内の高速道路のうち約4割が開通から30年以上を経過し、劣化が進んでいることからも、近年は、こうした過積載に対する取り締まりが強化される傾向にあり、高速道路の料金所付近では毎日のごとく警察の検問を目にする。
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それでも過積載がなくならないのは、「企業の意思」
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