秋田と萩へのイージス・アショア配備こそ、日本を逆に窮地に追い込む「平和ボケ」
前回までにお話したように、秋田、萩へのイージス・アショア配備は合衆国悲願の弾道弾早期迎撃拠点の獲得と全方位監視早期警戒・追跡レーダーサイトの配備を兼ねるものだというのが私の見解です。あくまで私の見解に過ぎませんが、既述のように日本の弾道弾防衛にとっては期待される効果が低く、合理性がほとんどありませんので、私はかなりの確信を持っています。
では、合衆国から見たイージス・アショアが、私が推測するように弾道弾早期迎撃拠点の獲得と全方位監視早期警戒・追跡レーダーサイトの配備だとしたら、北朝鮮や中国、ロシアにとって、それらはどのような意味を持つのでしょうか。
まず北朝鮮です。北朝鮮にとって、日本は過去14年間の封鎖外交によって外交上の価値を持っていません。北朝鮮にとって日本は、在日米軍、在韓米軍の策源地であるということだけです。したがって、基本的に合衆国を相手にしていればよい訳で、合衆国が折れれば日本も追随すると考えています。ですから、日本が更なる制裁強化と叫んでも、カエルの面に水でしかありません。過去14年間、何ら外交上の成果を挙げていないことが何よりの証拠です。日本の対北朝鮮外交は、既に国内向けの政治宣伝材料でしかありません。
したがって北朝鮮にとっては、対日抑止力は考える必要が無く、対米抑止力のみが課題となります。対米抑止力の一環としての対日攻撃は、日本政府の参戦意欲を削ぐことが出来ればよい訳で、核による報復と等価である核攻撃の可能性は低いです。したがって、あくまで通常弾頭による戦略目標の攻撃が脅威であって、行政の中枢、皇居、大都市、交通結節点、重要橋梁、重要トンネル、工業コンビナート、核施設、石油備蓄基地などと言った日本社会にとって大きな打撃と恐怖を与える目標且つ、核報復に直結しないぎりぎりの線を見極めようとするでしょう。日本が恐怖と被害によって混乱し、米軍の支援から一時的にも脱落すればよいだけです。
一方で、合衆国は北朝鮮にとって国家と支配の存亡に関わる最大の存在です。合衆国さえ動かなければ北朝鮮の国家体制は安泰です。したがって、北朝鮮は合衆国との外交関係構築には熱心です。その為には、合衆国と対峙する為の切り札が必須であって、それが核と弾道弾です。
北朝鮮が、軍の弱体化に見舞われても、国民が飢えても核開発と弾道弾開発に資源を重点的に傾斜配分してきたことは、合衆国に到達する弾道弾と核によって対米抑止力を確立する為です。この抑止力を手放せば何が起こるかは、リビアのカダフィ氏、イラクのフセイン氏を見れば自明であり、核放棄の対価として不可侵条約の締結は最低限求めると思われます。これには、ウクライナが核戦力を放棄した際のブダペスト覚書の推移が参考になります。2014年のウクライナ騒乱とそれに続くロシアによるクリミア併合が先例となり、北朝鮮はきわめて高いハードルを設定するでしょう。(参照:北朝鮮は核放棄できるか ウクライナの先例 2017.5.10 10:46 太田 清 共同通信)
在韓、在日米軍の撤退ないし大幅縮小という形で恒久的デタント(Détente:国際関係の緊張緩和)が到来すれば、北朝鮮は核とICBM(大陸間弾道ミサイル)、IRBM(中距離弾道ミサイル)を手放す可能性がありますが、合衆国の対応としてデタントは困難で、北朝鮮は対米核抑止力の保持に固執するでしょう。それは国家と等価である程に重要であって、続・猿の惑星に出てきた核兵器を信奉する種族にも通じる徹底したものがあります。
「北朝鮮の核」はなんのためか?
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