秋田と萩へのイージス・アショア配備こそ、日本を逆に窮地に追い込む「平和ボケ」

「対抗措置としての軍拡」を無視した安直な配備

 ロシアの場合はどうでしょうか。ロシアはオホーツク海を「プーチンの浴槽」として、対米抑止力である戦略ミサイル原潜(SSBN)を展開しています。秋田のイージス・アショアはそれを監視できる可能性はあります。しかし、アラスカの早期警戒監視網とも重なりますので、大きな脅威とはなりません。しかし、ロシアはINF(中距離核戦力)全廃条約への違反を懸念しています。(参照:露駐日大使「イージス・アショアが巡航ミサイル装備ならINF条約違反」 Sputnik / Mikhail Tchiganov 2018年03月16日 17:02)  米露間の条約であるINF全廃条約に日本のイージス・アショアが抵触すると言うロシアの懸念は一見、不合理ですが、相互査察が行えない以上、実質的に合衆国の管理下にあるイージス・アショアにINFである巡航ミサイルが持ち込まれることを懸念することは当然です。ロシアによる定常的な査察を認めない限り、ロシアによる対抗措置としての軍拡の原因となり得ます。最悪の場合、極東でのINF全廃条約崩壊により、多弾頭核IRBM SS-20(RSD-10)が極東にズラリと並んだ恐怖の再来ともなり得ます。外交上、軍事上のたいへんな厄介事の原因です。なお、INF全廃条約は地上配備のINFを対象としており、艦艇は対象外です。ここにもイージスMD護衛艦の圧倒的な優位性があります。  中国はどうでしょうか。イージス・アショアのレーダーにSPY-1でなく、最新式(開発中)のSPY-6やSSRの装備予定との報を大歓迎する声があります。しかし、対日MRBM攻撃へはSPY-1で十分であり、SPY-6やSSRはあきらかにオーバースペックです。これはその過剰性能によって監視対象となる中国を刺激することになります。 中国の核抑止力は、合衆国本土、ロシア本土の戦略目標を確実に破壊し得るものですので、GBDなどの現状のMD程度では揺るぎません。しかし、日本が新たに中国領土を監視し得る軍備を得ることは、対中軍拡と見做され、外交上の無用の厄介事を背負い込むことになります。また、INF疑惑を持たれれば定常的な査察の受入れ以外、逃れる術はないでしょう。  高いお金を出して、納期はずるずる遅れ、性能は無用な過剰性能、配備位置は日本本土の弾道弾防衛には不適格、そして中露からも敵対的軍拡と見做される。禄なことにはなりません。何より、萩と秋田が先制核攻撃の最重要目標となり得る。最悪の場合は、東京都心と立川市まで先制核攻撃の対象となる。国としてこのような選択は、自殺行為です。兵器というものは、必ずしもカタログスペックのよいものを求めればよいと言う訳ではないのです。その兵器によって生じる外交関係の変化、軍事バランスへの影響を慎重に考えねばなりません。  イージス・アショア日本配備は、2015年9月に強行採決された、安保法制の最悪の効果と影響と言ってよいと私は考えています。連載第4回で示したランド研究所による報告書のタイトルを見てみましょう。 Jaganath Sankaran, The United States’ European Phased Adaptive Approach Missile Defense System Defending Against Iranian Threats Without Diluting the Russian Deterrent, 2015, RAND Corporation  ”Without Diluting the Russian Deterrent(ロシアの抑止力を希釈することなく)”とまでタイトル末尾で言及しています。抑止力に関わる軍備は、本来それほどに繊細でなければならないものです。今の日本政府、自民党にそれを感じることは出来ません。再度書きます、「真の平和惚け」であると。
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防衛省による地元解説における「詭弁」
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