投資している側にも、投資先の企業活動を精査する責任がある
【炎上】「『ラオスのダム決壊は日本のせい』byハーバービジネスオンライン志葉玲」と題したnetgeekの記事。筆者の記事が「不自然なまでに韓国を擁護し日本を貶め」ている、と批判している。時事通信社が配信した現地の写真も無断使用
英国ロンドンに本部を置き世界18か国で活動するNGO「ビジネス・人権資料センター」の日本駐日代表である髙橋宗瑠氏は、「国連のビジネスと人権に関する指導原則では『ビジネスでのあらゆる行動に責任が伴うもの』とされています」と語る。
高橋氏の言う「国連のビジネスと人権に関する指導原則」とは、2011年に国連人権理事会で承認された、全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準のこと。ここで守られるべきとされる「人権」の定義には、労働者の権利はもちろん、事業による社会・環境への影響なども含まれている。
つまり、今回のセピアン・セナムノイ・ダムの決壊により、数十人の人々が死亡し、数千人もの人々が被災したことも、当然、「事業による人権侵害」とみなされ、日本の銀行なども含めた関連する全ての官民の関係者に相応の責任が問われるというわけだ。
「例えば製造業においては、現地のサプライヤーが起こした人権侵害に関して、その企業に発注している日本の企業側にも、人権侵害を行っている企業の活動を可能とさせていることに責任があるということです。同様に金融においても、投資先の企業活動が人権に対する負の影響を与えないか、その事業によって現地の社会や環境に悪影響が及ばないか等について、デュー・ディリジェンス(※1)を行ったか、ということが問われます」(高橋氏)
(※1)組織が及ぼすマイナスの影響を回避・緩和することを目的として、取引先などを精査するプロセスのこと。
過去の具体的な事例を見ても、直接人権侵害に関与していなくても、その人権侵害を止める立場にあったのに、それを止めなかったことについて、責任を問われるケースはいくつもある。
コンゴ民主共和国での治安部隊による同国北部の住民への暴力やレイプ等の人権侵害について、スイスとドイツの製材会社ダンザーグループは、その子会社がコンゴ治安部隊への後方支援を行っていたとして、ダンザーグループの担当者はドイツのNGOから刑事告発され、ドイツ地方検察も告発を受理した。
また、オランダ政府は2013年、イスラエル占領下の東エルサレムでの事業へ、オランダ企業が投資しないよう勧告を出した。イスラエルが東エルサレムで行っている入植地建設は国際法違反であり、イスラエル当局によるパレスチナ人の住居破壊などの人権侵害にもつながっているという見地からの措置だ(※2)。
(※2)企業の説明責任に関する国際円卓会議(ICAR)に提出された、ファフォ応用国際研究所(本部ノルウェー・オスロ)の報告書を参照。
ビジネス・人権資料センターでは「セピアン・セナムノイ・ダムの建設がずさんである」という報告について、ラオス国営企業やクルンシィ・アユタヤ銀行、クルン・タイ銀行、韓国輸出入銀行等に問い合わせを行ったが、回答はなかったという
(Laos: Groups call on companies to be held accountable for collapse of Xe Pian-Xe Namnoy dam)。
三菱UFJ銀行に対しても、本件についてビジネス・人権資料センターは問い合わせをしたが、「残念ながら回答が得られなかった」という。
高橋氏は「人権デュー・ディリジェンスの重要さについて、日本の金融機関も意識が高まりつつありますが、具体的にどのような対応をしているのか、もっと情報開示が必要です」と強調する。筆者としても、三菱UFJ銀行が誠意ある対応をすることを願いたい。
ラオスでのダム決壊について、日本の報道では、上記のような国連の人権とビジネスに関する指導原則、人権デュー・ディリジェンスといった視点が皆無だった。世界各国の政府は、国連のビジネスと人権に関する指導原則を実施するために、国別行動計画(NAP)を発表・策定。NAPは、米国やイギリス、EU諸国等で、国内法化されている。
日本も策定に手掛けているが、NGOなど市民社会の意見が十分に反映されるようにする必要がある。日本の公的資金及び民間の資金が正しく運用され、人権侵害につながらないよう、日本全体としても意識を高めて具体的な行動をしていくことが必要だろう。
◆ニュース・レジスタンス 第5回
取材・文/志葉玲(ジャーナリスト)