タイの不動産仲介業者はあくまでも仲介に立つだけの存在だ。どんな謳い文句で物件を購入させたとしても、売ってしまえば責任はそこまでになる。これもまた悪徳不動産が強気で売り込んでくる理由でもある。
前出のA氏の話では、高額不動産の仲介をすればそれなりに大きな利益を上げられるので「1年間の家賃保証」をつける業者もいるのだとか。契約年数だけ保証してあげても充分に利益が出る。不幸なのは所有者で、なにも知らずに購入し、一定期間は当初の話通りに家賃収入があったのに、保証期間が終わればその金額で借りてくれる人など存在しないことを知るのだ。
とはいっても、タイの不動産投資に魅力があるのは事実だ。日本人は年々増加しているので、場所さえ間違えなければ借り手がみつかりやすい。日系の不動産仲介業者は大半が良好な企業であり、そこに所有する物件の仲介を頼んでおけば投資家本人は動かずに日本人の店子を得ることができる。また、不動産投資の魅力の裏事情として、タイでは賃貸物件が5部屋以下の場合は申告不要なため、家賃収入をすべてポケットに入れることができるのもメリットのひとつだという。
タイののんびりした雰囲気に憧れて、老後のために物件を買っておく人もいるが、いつか自分が暮らすための場合なら立地が多少悪くても問題ない
現在タイの銀行定期は年率1.3~1.5%になる。利息には別途税金がかかるので、やり方によっては不動産投資の方が大きな現金収入になっていい。しかし、都心は物件そのものが高額だし、逆に少し中心から外れたところにすると物件は安く買えても家賃2万バーツ(約7万円)で貸し出すことは相場的に難しい。
自分で住むならいいが、運用はタイとバンコクの地理や日本人社会の動きを知っていなければ成功は困難だ。しかもタイは灼熱の国の上、バンコクは地盤沈下が激しい。10年も経つと物件としての価値も相当下がる。年数が長くなると高額の家賃も売却益も期待できない。ある不動産業者は「スクムビット通りソイ24くらいしか今確実に儲かるところはない」と断言する。
しかし、タイでの不動産投資が絶対的にダメだとは誰も言わない。やり方によっては大きな利益もあるのだ。タイの不動産投資は人の話を鵜呑みにするのではなく、自分の足で調べて勉強しなければならない。先のアソークの物件近くにあるサービスアパートの家賃だって、素人でも簡単に調べることはできる。自分で調べてから自己責任で投資をするという点は、タイも日本も変わらないのだ。
賃貸の傾向としては日本人は駅近を好み、欧米人は奥の静かな場所を好むという
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NatureNENEAM)>
たかだたねおみ●タイ在住のライター。6月17日に近著『
バンコクアソビ』(イースト・プレス)が発売