韓国で性暴行疑惑の政治家が“まさかの”無罪! 合計10回のセクハラ行為が帳消しになった謎

韓国のMeToo

ソウル西部地裁の前には抗議の人だかりも(KBSより)

 昨年の冬、ハリウッドの有名映画プロデューサーからのセクハラ被害を告白した女性たちを皮切りに、今年、世界的に広まった「Me too運動」。  韓国では、1月に女性検事が、検察庁の上司からのセクハラ被害告発をきっかけに、政界、芸能、文化界など業界ジャンルを問わず波紋を広げてきた。  韓国の「Me too運動」勃発から7ヶ月。先日、これに関するある重大な判決が下された。  ソウル西部地裁は14日午前、判決公判で、安熙正(アン・ヒジョン)氏の性的暴行容疑に対して「無罪」を言い渡した。  安氏は韓国・忠清南道の前道知事でありながら、廬武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の最側近も務めたスター政治家である。  しかし、今年3月に元秘書の金ジウン氏からセクハラ被害の告発を受けて、政治活動の停止と知事の辞職、さらには所属党であった「共に民主党」の除名処分を受けている。(参照:韓国のリベラル政治家も女性秘書暴行で「#MeToo」入り! 日本より容赦ない粛清の嵐)  安氏の容疑は、昨年7月29日から今年2月25日までの間、業務上圧力による姦淫が4回、業務上圧力によるセクハラ1回、強制わいせつ5回とすべてが性犯罪によるもの。  今回、これら全てが無罪の判決を受けた。  報道によると、裁判部は「(性犯罪事件の)唯一の証拠は被害者の供述であり、証言である。言動ひとつにしても、被害者の受け取り方を十分に考慮しなければならない」としながらも、今回の判決に関しては、「被害者の供述で納得できない部分や疑問点が多い。また、当時被害者が(パニック心理状態のひとつである)凍りつき症候群などに陥っていると見ることはできない」ことから、容疑者を無罪とした。  また、「現在の、韓国性暴力犯罪処罰システムの下では、こんな証拠だけでは性的暴力犯罪と見ることはできない。検察の公訴事実だけでは、被害者の性的自由が侵害されたとは言いがたい」と明らかにした。  今回の事件の核心争点となっていたのは、「権力や圧力による強制性」である。  元秘書である金氏は以前、韓国・JTBCの報道番組「ニュースルーム」におけるインタビューで「自身が出来る、最大限の拒絶の表現をした」と話している。  しかし、今回の判決からみると、裁判部は「(当時の)道知事として被害者の任免権を持ったのをみれば、権力行使と見るのが妥当だが、少なくとも今回の件にいたっては、被害者の心理状態はどうであれ、任免権を乱用したとはいえない」と判断し、有罪を認めなかった。(参照:HUFFPOST)  無罪判決を後押ししたのには、金氏が性的暴行を受けた翌日も通常通り仕事をこなした様から、「被害者らしさ」が垣間見えないという点も判断材料となっている。  今回の無罪判決は、穏やかに終息へは向かいそうにない。  18日にはソウル都心で多くの女性団体が集まり、今回の無罪判決に対するデモ集会が開かれた。主催側の発表によると、集会参加者数は約二万人。警察も具体的なデモ参加者数を発表していないが、数万人規模と推定した。(参照:NEWSIS) 「性犯罪者を庇護する司法部も共犯」、「安熙正(アン・ヒジョン)が無罪なら、司法部が有罪だ」をスローガンに、「(今回の無罪判決によって)性暴力被害の告発が、消極的になってはならない」と主張した。  被害者である金氏も判決後にコメントを出した。  金氏は、判決による精神的苦痛を訴えており、裁判所を真っ向から批判。「必ず勝利を掴んでみせる」、「みなさん、手伝ってください」と訴えた。
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「沈黙は、私を守ってくれない」
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