迎撃困難なミサイルの存在~BMDというイタチごっこ
イタチごっこのもう一つは、迎撃が困難なミサイルで攻撃をすることです。北朝鮮は、IRBMであるムスダン:火星10を実戦配備しています。火星10は、ノドンの2倍以上の4000kmの射程を持つとされます。このIRBMは、グァムの合衆国拠点を攻撃対象としたものですが、射程を大きく短縮して日本を標的とすることも可能です。これが話題となったロフテッド軌道(lofted trajectory)による攻撃です。ノドンに比して高価な火星10を対日攻撃に使うのは費用対効果と言う面ではかなり分が悪いものです。
しかし、図1、図4に示すようにIRBM~ICBMの軌道並の高度をとるロフテッド軌道による攻撃は、SM-3 Blk IAでの迎撃を困難とし、PAC-3による迎撃も弾頭の再突入速度が高速であるがゆえにたいへんに困難となります。図4に示すように、現有の弾道ミサイル防衛システムでは火星10によるロフテッド軌道攻撃を迎撃することは無理と日本政府は考えているようです。
但し火星10は、1発あたりの費用が10~20億円とされます。配備数もノドンに比して遥かに少ない虎の子の火星10を対日攻撃に使うとは、なかなか考えがたいものです。火星10はグァムを標的とした対米核攻撃兵器であって、対日攻撃に使われる可能性はきわめて低いと私は考えています。
他に、弾頭にデコイ(囮)を仕込むなどの迎撃無効化手段が考えられますが、本稿では触れません。
いずれにせよ日本政府は、イージス・アショア導入の理由として安さを挙げていましたが、これはすぐに破綻してしまい、現在ではロフテッド軌道攻撃等を論拠に切り替えつつあるように考えられます。
図4:平成20年時点でのロフテッド軌道攻撃にかんする概念図。防衛省 弾道ミサイル防衛 平成20年3月より
しかし、現実の日本MDの欠陥は、たったの32発と言うミッドコース
迎撃ミサイルの弾数過少、
点の防御でしかなく
人口密集地や
原子力発電所、工業地帯、石油備蓄基地、交通結節点などを
防御覆域で覆えないという
PAC-3の本質的弱点というよりもそもそも役割が違うことの解決が遥かに優先するのではないかと言うのが私の考えです。
たいへん長くなりましたが、この稿続きます。次は弾道ミサイル防衛の能力強化について述べます。
◆新連載『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第2回
<文/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado photo/
防衛省 (CC BY 4.0) >
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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