ミサイル防衛の現実を踏まえれば、イージス・アショア導入以前にやるべきことがある

現行装備の課題

 現在のMDでは、これらイージスMD護衛艦が、北朝鮮からの弾道弾攻撃に対して最適のミッドコース迎撃位置である日本海に2隻遊弋(ゆうよく)し、迎撃することとなっています。但し、搭載するSM-3 Blk IAミサイルは、全保有数32発、1隻辺り8発で、弾道弾1発を2発のSM-3で迎撃しますので、最大迎撃数は1隻辺り4発となりますから合計8発で2隻の弾庫は空っぽになります。もちろん1隻辺り80発前後のSM-2艦隊防空ミサイルや対潜ミサイルは残りますが、これらはミサイル迎撃には全く役に立ちません。  SM-3 Blk IAの搭載数が余りにも少なく心もとないですが、このミサイルはお値段が1発1千万ドル(11億円)で、数がそろえられないのです。しかも対日納入価格は1発20億円とも言われています。日本は、これまでに36発を購入し、4発を試射で使っています。  また海自は、イージスMD護衛艦を4隻保有していますが、常時展開できる艦艇は、保有数の1/3(作戦行動中、訓練・移動中、整備・改修中それぞれで1/3ずつ)という常識がありますので、4隻で2隻常時展開はかなり難しいです。もっとも海自は原則として外征しませんので4隻で何とか出来ると言うことだったのでしょう。  このミッドコース迎撃のみで大丈夫かと言えば否で、例え弾数が十分であっても撃ち漏らしが生じます。この撃ち漏らしを迎撃するのが空自のPAC-3です。  PAC-3はターミナルフェーズ迎撃の下層を担当するもので、合衆国系MDでは唯一の実戦証明済みの兵器と言えます。イラク戦争はじめ近年ではサウジアラビア・イエメン紛争で実戦使用されており、兵器としての信頼性は十分に高いと言えます。  問題はPAC-3は、ターミナルフェーズでも下層を担当する、まさに最後の盾と言うべきもので迎撃覆域がきわめて狭いのです。図3に示すように現在保有するPAC-3では、関東平野と名古屋、博多を防衛できる程度です。もちろん移動式ですので必要と思われる場所に移動しますが、たとえば原子力発電所すべてを防衛するのには全く足りません。また関東平野をからに出来ませんので、移動できる部隊には限りがあります。  PAC-3はあくまで局地防空兵器なのです。また、PAC-3でも弾道弾1発あたり2発で迎撃しますが、サウジアラビアでの実戦映像では弾道弾1発を4~5発で迎撃しているものもあります。イージスMDほど心もとない訳ではありませんが、ミサイルを撃ち尽くすと継戦能力を失います。
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終末迎撃において国の大部分は「丸裸」
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