大会のストーリーを用意しても「MCバトルの神はそれを弄ぶ」 「ダメリーマン成り上がり道」#8
予想だにしなかった優勝候補の一回戦敗退。思わぬ伏兵の躍進。決勝で実現した宿命の対決……。トーナメント形式で行われるスポーツの大会では、そんなドラマが見る者たちを熱くさせる。それは、ラッパーたちがラップで戦うMCバトルでも同様だ。MC正社員の連載『ダメリーマン成り上がり道』の第8回は、MCバトルにおけるストーリーやドラマの重要性について解説する。
無限に娯楽が溢れ、パソコンやスマホで楽しめる無料コンテンツも多い現代において、商品をいかにプロデュースするかは大きな課題だ。MC正社員が主催する大会『戦極MCBATTLE』では、それぞれの大会に「文脈を作ること」を大事にしているという。
「やっぱり人って、何かしら『行く理由』がないとイベントには来ないし、DVDも『買う理由』がないと買ってくれない。だから、テーマやストーリーを主催者側が考えなきゃいけないんです。『戦極MCBATTLE』では毎回テーマを作って、『だから遊びに来たほうがいいよ』と説明するのが俺の仕事だと思っています」
その言葉通り、戦極MCBATTLEでは『戦極MCBATTLE 第六章 黄金の春の陣』、『戦極MC感謝祭 ミュージックビデオ杯』など、大会ごとに違う名前をつけ、独自のテーマを設定している。
「たとえば『戦極MCBATTLE第13章 全国統一編』は、キャパ1300人ほどの渋谷O-EASTで開催した大会。当時は『そんなに人が集まるわけねえ』って俺は思って。戦極最大規模の戦いであることを伝えるためにこの名前にしたんです。ただ、実は『幽☆遊☆白書』の『魔界統一編』が元ネタで(笑)。でも、ホントに蔵馬や雷禅、軀、黄泉たちが出ていた『幽☆遊☆白書』の魔界トーナメントみたいな錚々たるメンツが集まったんですよ」
たしかに『戦極MCBATTLE第13章』という名前ではどういった大会なのかイメージが湧きづらいが、『戦極MCBATTLE第13章 全国統一編』なら「日本一が決まるんだな」「規模の大きい大会みたいだな」ということは伝わる。『幽☆遊☆白書』を知っている人にも「おっ!」と反応してもらえるだろう。
このように戦極MCBATTLEでは、ほかの大会でも人目を引く名前がついていることが多い。
「俺はゲームや漫画が好きなので、12章の『関東乱舞編』は格ゲーの技の『龍虎乱舞』が元ネタです。ちなみに格ゲーの世界に置き換えるなら、戦極はSNK的な立ち位置で、UMBがCAPCOMだなと思っています(笑)。あとGWに開催した第六章は『黄金の春の陣』という名前にしていて、『戦極MC感謝祭 ミュージックビデオ杯』は、名前の通り優勝したらMVを作れる大会。『戦極MCBATTLE 第15章 Japan Tour FINAL』は、はじめて全国ツアーを回った大会の最終戦です」
メジャーシーンで活動するミュージシャンも、毎年のように行うライブツアーには「○○○ツアー」と何かしらの名前をつけているが、毎回テーマを設けて、それを名前で伝えることはやはり大事なのだ。
なお、先述の『戦極MCBATTLE第13章 全国統一編』はかなり盛り上がったそうだ。
「優勝したのがNAIKAさん(NAIKA MC)。NAIKAさんはベスト8でCHICO CARLITOに勝つんですけど、CHICO CARLITOはその前に晋平太さんと戦っていて、延長を何度も繰り返した上での勝利でした。CHICO CARLITOはその晋平太戦で燃え尽きた感があったんですよね」
まさに『スラムダンク』の「山王工業との死闘に全てを出し尽くした湘北は、続く3回戦、愛和学院にウソのようにボロ負けした――」のような展開。見る側もドラマを感じやすいだろう。
「組み合わせの妙やクジ運もトーナメントの醍醐味なんですよね。『幽☆遊☆白書』の魔界トーナメントでは優勝したのが実力者の煙鬼っておじさんで、彼も『クジ運もあって優勝できた』みたいなことを言っているんですが、それも『第13章 全国統一編』の展開と似ているなと思いました。NAIKAさんは確かに実力者ですが、当時彼の優勝を予想できた人は少ないと思うんですよね。あと、その13章で負けたCHICO CARLITOは、すぐ後に行われた2015年のUMBのGRAND CHAMPIONSHIPでは優勝した。13章のベスト8での敗退から続けて見ている人は、そこにもドラマを感じられるんですよ」
イベントのテーマを考え、そのイメージを反映させた名前をつける……。単純なことのように思えるが、それをくり返すことで歴史が積み重なり、新たなドラマが生まれる土壌ができるのだ。
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