一部の熱狂的支持さえあれば安倍政権は強気でいられる。民意と乖離した権力を生む小選挙区制の弊害

たくさんいる「小選挙区制」の代理人

 このように書くと、衆院の小選挙区制の問題はあるとしても、衆院の比例区や参議院があり、自治体の知事や市区町村長、議員もいるので、小選挙区制だけで日本の政治が動くわけではないと、指摘する人もいるでしょう。  そこで、日本にどれくらい小選挙区制の代理人がいるのか、調べてみました(2018年8月現在。参院は2018年の法改正前の定数。福島県、岐阜県は複数定数区としてカウント)。 衆院:289人(465人中) 参院:58人(242人中) 都道府県知事:47人(47人中) 都道府県議会議員:442人(2704人中) 市区町村長:1747人(1747人中)  意外に思われたかも知れませんが、一つの選挙区から1位の得票の候補を代理人として選ぶ小選挙区制は、衆院小選挙区の他にも数多くあるのです。知事や市区町村長は、すべて小選挙区制です。また、参院の1人区、都道府県議会議員の1人区も、小選挙区制なのです。  また、都道府県議会の小選挙区は、都市圏に多いのです。小選挙区選出議員が20人を超える議会は、7府県あります。茨城県は定数63のうち22人、埼玉県は定数93のうち27人、千葉県は定数95のうち20人、愛知県は定数102のうち25人、大阪府は定数109のうち31人、兵庫県は定数87のうち21人、福岡県は定数86のうち20人が、小選挙区の選出です。  逆に少ない県は、地方圏に目立ちます。小選挙区選出議員が2人以下の議会は、5県あります。富山県は定数40のうち2人、滋賀県は定数44のうち1人、和歌山県は定数46のうち2人、鳥取県は定数35のうち2人、沖縄県に至っては定数48のうちゼロです。  さらに、目に見えない小選挙区の代理人は、もっとたくさんいます。カウントはできませんが、ほとんどの市区町村議会議員です。彼ら・彼女らのほとんどは、自治会や町内会、集落等の単位で候補者を選定し、選挙運動をします。見えない小選挙区の区割りが、あたかも存在するかのように「オラが地域の候補者」を選出するのです。  つまり、小選挙区は衆院にとどまらず、実態としては日本に多く存在しているといえるでしょう。

首相指名も小選挙区制

 首相指名は、465人の衆院議員を有権者とする小選挙区制です。首相指名では、衆院の議決が参院に優先します。参院で誰を指名しようと、衆院の指名者が首相になるわけです。衆院の定数465のうち、小選挙区選出議員は289人(62.15%)です。その衆院で多数を得た人が、首相になるわけです。  実質的に、小選挙区の二乗のようなことが、首相指名で起きているわけです。その分だけ、民意とのかい離が起こりやすいことも意味します。  自民党から選出される首相は、行政の長であることに加え、自民党総裁として、国会多数派の長、都道府県議会多数派の長、市区町村議会多数派の長となります。なぜならば、衆院、参院ともに自民党が第一党です。都道府県議会でも、市区町村議会でも、たいていの場合、自民党議員(あるいは自民党の国会議員を支援する無所属の保守系議員)で構成する会派が第一会派です。また、小選挙区(1人区)選出の議員は、国会と都道府県議会を問わず、多くが自民党議員です。  そして、自民党の選挙では、小選挙区選出の衆院議員が支部長として、あらゆる選挙に臨みます。衆院選はもちろん、参院の全県区、知事・市区町村長、都道府県議会議員、市区町村議会議員と、衆院の小選挙区を要とした「選挙マシーン」がフル稼働します。  つまり、現在の自民党政権は、小選挙区制に支えられているといっても過言ではありません。小選挙区制は、自民党の生命線なのです。
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カルト的独裁政権を生まないために
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