精神障害者雇用が義務化。企業に求められる対応とは

十分な検討がなされないままの運用開始は問題

【障害者の職場定着率】

【障害者の職場定着率】JEED「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017)より

 また、そもそも先天的に脳に偏りがある発達障害を精神障害者に含めていいのかという議論もある。 「’05年に発達障害支援法が施行された後、障害者手帳による社会的支援を急ぐあまり、’11年に身体・知的・精神障害の3つの中から選ばざるをえなかった。それで、消去法的に精神障害となったという経緯があります」  一口に発達障害といっても種類が分かれている。対人関係やコミュニケーションが困難なアスペルガー、不注意・多動・衝動性の症状が見られるADHD、読み書きや計算が困難な学習障害。何ができないか企業は把握する必要がある。 「例えば勤務時間の融通をきかせる企業は多いですね。パニックを起こさないよう30分遅らせて出社させたり、終業時刻を早めたりしています。特性に応じて、細かにスケジュールを組んだり、書き出して視覚的に覚えさせたりも」  草薙氏は理想的な雇用環境として、厚生労働省が推進する障害者の雇用促進を目的とした“特例子会社”の例を挙げる。 「中でも東京海上グループの『東京海上ビジネスサポート』は見本になります。社員の約半数が障害者で、そのほとんどが発達障害。業務は事務が中心ですが、自社内でカフェ業務があったり、障害の特性に合わせた仕事ができます」  だがここまで対応が行き届いている例は稀で、そのためには大規模な改革が必要だ。また、企業の対応が求められる一方で、少しでも障害の疑いがある人は、早めに認知する重要性を草薙氏は説く。 「自分の特性を理解して職業訓練をしている人は、企業でとても優秀であると評価されています。障害者が共生する社会になるためは、企業だけでなく当事者にも働きかけ、お互い歩み寄ることが必要でしょう」
草薙厚子氏

草薙厚子氏

【草薙厚子氏】 元東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。刑事事件、医療など幅広くカバー。著書に『となりの少年少女A』(河出書房新社)ほか ― SPA! BUSINESS JOURNAL ―
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