韓国では全身タトゥーを入れて兵役逃れを図るケースも
韓国のヘナタトゥーの露店
一方、韓国では毎年夏になると、若者の街や観光地に、1週間前後で消えるタイプのヘナタトゥーやプリントタトゥーを入れられる露店が現れ、多くの客が足を止める光景を目にする。ファッションやポップカルチャーにおいて先進的な韓国では、元々ボディアートに対する関心が高く、毎年大邱市ではボディアートの世界大会が行われるほどだ。
しかしそんな中でも、根強い儒教思想や、日本と同様、「暴力団関係者」というイメージの影響から、“本物”のタトゥーはなかなか受け入れられてこなかった。
ところが昨今、歌手や俳優、スポーツ選手らが自らのタトゥーを隠すことなくテレビ出演するようになると、若者を中心にタトゥーの人口率は急増。日本と同じく、風呂文化のある韓国だが、「タトゥーお断り」の看板が掲げられている温泉施設やスーパー銭湯でも、実際場内に入ってみると、立派なタトゥーを入れた人が湯船に浸かっている姿をよく目にする。
そんなタトゥーにおける抵抗低下の影響は、国内の「徴兵制」にまで及んでおり、元々風紀と秩序を維持するために作られた兵役制度の「タトゥーに関する規定」を逆手に取って、全身に刺青を入れて兵役を逃れようとする男性が検挙されるケースも昨今多発しているという。
こうしてタトゥーを入れることには、全体的に抵抗が減りつつある韓国だが、その一方、施術する側のタトゥーアーティストに対する環境は、時に日本以上にシビアだ。
ソウルで女性タトゥーアーティストとして活動するハナ氏(仮名)によると、
「日本同様、韓国でもムンシン(刺青)の施術は医療行為とされているため、医師免許を持たずに国内でタトゥーアーティストとして活動することは違法です。そうした中、韓国ではアンダーグラウンドで活動している者同士のライバル意識が強く、最近、互いを警察に密告するケースが多発しています」
世界各国、タトゥーにおいては様々な社会的背景があるものの、タトゥーが「他人」をネガティブな方向へ判断する材料となってしまっていることは、多くの国で起きている共通の現象だといえる。
冒頭でも述べた通り、日本では「暴力団関係者」というイメージが払しょくできず、未だアンダーグラウンドの域から脱せないタトゥーだが、実際、国内のタトゥーショップでは、「暴力団員への施術はしない」とする店がほとんどで、今ではむしろ「団員以外じゃないとタトゥーが入れられない」という皮肉も起きている。
同じアンダーグラウンドな世界から這い上がってきた「ピアス」のように、タトゥーもいつか本当の意味で、夏の「日の目」を見られる日が来るのだろうか。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto