火星はなんといっても、その赤く妖しく輝く姿でおなじみである。最接近を待たずとも、すでに6月下旬から、夜遅くの南の空には火星が明るく輝いており、帰宅時などに見かけた人も多いかもしれない。
ちなみに、大きな火星は最接近する7月31日だけしか見られないわけではなく、最接近後も約1か月、8月下旬ごろまでは見頃が続く。むしろ8月以降のほうが、火星が昇ってくる時間が早くなるため、夜更かししなくても見やすくなる。
大接近時の火星は、肉眼でも十分楽しめるが、天体望遠鏡を使えば、赤茶けた大地をはじめ、「大シルチス」と呼ばれる場所をはじめとする、黒っぽく見える領域が見える。また北極と南極には、二酸化炭素と水が凍った「極冠」と呼ばれる白い領域も見ることができる(もちろん大気などの条件が整っていることが前提)。
これを機会に天体望遠鏡を買うのもいいかもしれない。火星の模様を見るためには、できるだけ口径の大きな、つまり比較的高価な望遠鏡を買う必要があるが、火星以外の天体の観測にも使えるため、一生モノの財産になる。
もっとも、お金以外にも、操作や観察に慣れが必要だったり、普段仕舞っておく場所が必要だったりと、自前で望遠鏡を買うのはなかなか大変である。
そんなときは、近くの天文台や博物館、科学館、大学などが開催する、観望会に参加するのがおすすめである。手ぶらで行って気軽に楽しめる上に、ただ観察するだけではなく、専門家から火星についての解説が聞けたり、質問したりもできる。
また、大接近時の火星は、都内などの比較的天体観測に向かない場所でも十分見られるため、サンシャイン60や六本木ヒルズなど、観光・デートスポットでも観望会が予定されている。
観望会などの情報をまとめた「
パオナビ」などを参考に調べて、ぜひ訪れてみてほしい。
国立天文台が2016年に撮影した火星。きちんとした機材を使い、条件もうまく整えば、こうした姿が見られる可能性がある (C) 国立天文台
ところで、火星では現在、ちょっとした異常事態が起きている。今年の5月末に発生した砂嵐が、火星の4分の1を覆うほどにまで成長したのである。火星で砂嵐が起こること自体は珍しくないものの、今回のはひときわ規模が大きく、観測史上最大級にまでなっている。
これにより、砂嵐の真っ只中にいる火星探査車が機能停止に陥るなどの影響が発生。その影響は地上からの観測にも及び、砂嵐によって模様がかき消され、濃淡の少ない、のっぺりとした姿を見せるようになった。
このまま砂嵐が収まらなければ、今後も火星の模様が見えない、あるいは見えづらい状況が続くことになる。ちょっと残念ではあるものの、それはそれで貴重な機会ではある。
ちなみに火星にはいま、米国や欧州、ロシア、インドが送り込んだ計8機の探査機が活動を続けている。さらに、今年5月に打ち上げられたNASAの探査機「インサイト」が、火星を目指して航行を続けており、11月27日に火星に着陸する予定となっている。
この夏、家族や恋人、友達とちょっと夜におでかけし、火星を眺め、そこで活躍する探査機たちに思いを馳せてみてはいかがだろうか。
NASAのハッブル宇宙望遠鏡が、2016年と今年に撮影した火星。砂嵐の影響で、今年の火星は濃淡が薄くなっている (C) NASA, ESA, and STScI
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・PAONavi – 全国プラネタリウム & 公開天文台情報(
https://paonavi.com/)
・火星大接近2018 | 国立天文台(NAOJ)(
https://www.nao.ac.jp/astro/feature/mars2018/)
・Mars Close Approach | Mars in our Night Sky – NASA’s Mars Exploration Program(
https://mars.nasa.gov/all-about-mars/night-sky/close-approach/)
・Opportunity Hunkers Down During Dust Storm – NASA’s Mars Exploration Program(
https://mars.nasa.gov/news/8348/opportunity-hunkers-down-during-dust-storm/)
・Overview | Mars – Solar System Exploration: NASA Science(
https://solarsystem.nasa.gov/planets/mars/overview/)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
КОСМОГРАД
Twitter:
@Kosmograd_Info