ジャーナリスト同士が火花を散らすオウム事件「真相」論争の行方

遺骨争奪戦にも波及

 死刑執行後、メディアの注目は麻原の遺体の行方に移った。現在、麻原自身が遺体の引受人として四女を指定したとして、四女がこれを受け入れ、太平洋に散骨すると表明している。四女は2017年に両親を自分の推定相続人から除外するよう横浜地裁に申し立て、認められている。アレフとも麻原一家とも関わりを絶っている立場だ。  これに対して、麻原の妻、次女、三女、長男、次男が連名で、法務大臣に遺体の引き渡しを要求したことで、なおのことメディアから「遺体争奪戦」として注目されている。  遺体はすでに火葬されているが、四女はいま引き渡されると身の危険を感じるとして、遺骨は当面、東京拘置所が保管。四女側は、散骨の際の費用拠出と警備を国が行なうよう求めている最中だ。  この四女の代理人が、ここで何度も登場している滝本太郎弁護士。  そして、「真相究明の会」の賛同人の1人であるジャーナリストの堀潤氏が、三女の側に立つ報道を行った。『週刊プレイボーイ』のウェブサイトに掲載された〈遺体引き渡しをめぐる報道のあり方に堀潤が異議。オウム真理教の元代表・麻原「遺骨問題」の深層〉だ。堀氏は「真相究明の会」の設立記者会見で、フロアに着席した三女の隣にピタリと張り付き、会見よりむしろ三女に向かってカメラを回し続けていた人物。同会は会見で、登壇者以外は撮影しないようアナウンスしていたが、身内である堀氏だけは特別扱いだったようだ。  この記事で堀氏は、麻原は意思表示が不能なレベルの病気だったという前提に立つ三女側の〈元死刑囚の精神状態からすれば、特定の人を引き取り先として指定することはありえない〉とする主張を紹介。また、一連の動きを「母親・三女vs四女」の遺体争奪戦という構図に仕立て上げたのはテレビのワイドショーであると非難した。また三女の「なぜ本人がしゃべれないのに(遺体引受人について)しゃべったことにされているんですか」というコメントを掲載したほか、自身の言葉として〈法務省によるなんらかの意図が働いたのではないか?〉と書いている。  遺体争奪戦という対立構造をメディアによるものとする陰謀論であり、遺体の引受人指定についても拘置所による捏造なのではないかとの陰謀論をほのめかす内容だ。  麻原の妻と三女ほか子供たちが、四女ではなく自分たちに遺体を引き渡すよう要求しているのだから、「母親・三女vs四女」の構図はワイドショーの演出ではなく、単なる事実。遺体引受人の指定については確かに証明されていないが、「しゃべれないはず」というのは三女による言い分に過ぎず、拘置所陰謀論を唱えるだけの根拠としては弱すぎる。  実は妻と三女の関係も、「真相」をめぐるものとは別の陣営構造を考える上で重要だ。妻はアレフに対して強い影響力を持っていると言われる。一方の三女は、2013年頃までは同様にアレフに影響力を持っていた、もしくは持とうとしていたことが、アレフ関連の裁判で認定されているものの、次男を新たなグルに据えようとする妻やアレフ主流派と対立。現在はアレフと決別しているようだ。ネット上では次女が三女をしきりに擁護していることから、次女は妻ではなく三女側陣営なのだろう。  大雑把にまとめるなら、「妻・次男連合vs次女・三女連合」だったものが、遺体をめぐっては共闘。「妻・三女ほか連合vs四女・滝本連合」という構図になったというわけだ。  もともと家族なのだから、誰と誰が手を組んでも不思議はない。ましてや事が父親の遺体となれば、なおさらだ。とはいえ、アレフとの関係が指摘されている者と無関係だと主張する者が、教祖の遺体獲得を目指して共闘を始めたという変化は、決して軽視できない。教祖逮捕後の教団の運営と無関係ではなかった「ロイヤルファミリー」なのだから。  三女は自身のブログで“父を宗教的・政治的に利用することは家族として決してできませんし、万が一、その動きがあったとしても家族が決して利用させないことをお約束します”と書いている。しかしアレフに影響力を持つとされる妻に対して、アレフと決別したと主張している三女が〈決して利用させないことをお約束〉することに、何の説得力があるのだろう。三女が本当にアレフへの影響力を持っていないなら、妻やアレフを三女がコントロールできるはずがない。
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オウム事件を巡る「歴史修正」を許すな
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