コーチング書籍を一冊も読んでいなくても、実践できればよい
ところが、知っているか、理解しているかということにこだわる評価シートが少なくないのは、知識偏重と実践軽視のひとつの現れであると思えてならない。例えば、コーチングの書籍を何冊読んでも、コーチング理論を何度勉強しても、面談でコーチング話法を繰り出すことができなければ、実践の観点からは価値がない。価値がないどころか、それまでに費やした時間とコストを鑑みるとマイナスだ。
一方、コーチング書籍を一冊も読んでいなくても、コーチング理論を一度も勉強したことがなかったとしても、コーチング話法のロープレを繰り返し行って、実際の面談で繰り出すことができれば、その方が、価値が高いと言える。
そして、不思議なことに、コーチング話法を繰り返し実践していって、身に付いてくるようになれば、理論ではないが肌感覚としてコーチングの意味合いが実感できるようになるのだ。つまり、知識や理解という意識が行動を変えるのではなく、行動が意識を変えると思えるのだ。
私が実施している能力開発プログラムの演習では、進行役である私が発言者を指名したり、参加者同士で発言者を指図し合ったりすることがない。発言したい人が自ら手を挙げて発言していただく。
それは、能動性を発揮していただくという期待とともに、「参加者ひとりひとりの異なる状況(早く話したいか、後で話したいか、そもそも発言したいか、したくないか)という個々の状況を尊重します」というメッセージを送ることでもある。参加者を尊重しますと10回言うよりも、参加者を尊重しますというメッセージを送ることができるのだ。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第92回】
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある