こうして、ひとつ上の販売戦略をとった『戦極MCBATTLE 第5章新春 ALL STAR GAME -2013.1.20-』のDVDは収録時間が3時間42分。バトルには当時からアーティストとして一線で活躍していたKEN THE 390、サイプレス上野や、UMBを2連覇していた晋平太、さらにはチプルソ、TK da 黒ぶち、黄猿などが参加。本戦の33試合をノーカットで収録し、予選の22試合も収録、さらには秘蔵インタビューなど盛りだくさんの内容だ。
「『普通にバトルの映像を入れるだけじゃ絶対に売れない』と思っていたので、インタビューとか色々なコンテンツを入れて、メチャクチャ気合を入れて作りましたね。当時UMB以外のDVDなんて売れるわけがないと思ってたから、何か差をつけようと必死でした。おそらく、あのときが本当に会社も辞めて切羽詰まっていたから……愛と呪いのDVDですね」
“手作り時代”からDVDの売れ行きがよくなるにつれ、なんとなく機材もグレードアップ……。ではなく、「いつ売れなくなってもおかしくない」というある種の脅迫観念があるからこそ、お金を払ってまで買いたいというユーザーがいるのだろう。ボーナスコンテンツなど可能なことはすべて実現し、さらに飽きられないよう同じことをくり返さない姿勢が売り上げにも繋がっているはずだ。
なお戦極MCBATTLEは、各大会のダイジェスト映像も、大会のベストバウト(特に面白かったバトル)もYouTubeで配信している。DVD発売後も映像はそのまま観られる状態だが、それでもDVDを買ってくれる人は多いという。無料コンテンツがあっても、しっかり“課金”してくれる層は存在するのだ。
「第17章までDVDを販売してきましたが、毎回のように買ってくれている固定ファンの人もいるなという感覚です。一方でYouTubeの再生でも一定の収益を上げられているので、戦極は今後もDVDの販売とYouTubeの両輪でやっていきたいと思います。ただ、俺が『メチャクチャおもしろい!』と思った大会のDVDが売れるかというと、そうじゃないときもあって(苦笑)。DVDの売れ行きは、出ているMCのメンツや大会のタイトルで決まることが多い気がします」
アイドルで言うところの“推しメン”が出ているかどうかも、売れ行きを左右するのかもしれない。戦極MCBATTLEはYouTubeでの映像配信による拡散効果もあり、イベントの集客も順調に増加していった。
「以前は『イベントの収益だけで食べていくのは難しい』と思っていましたし、イベント単体で見ると赤字のこともありました。でも集客が2000人、3000人くらいになれば話は変わってくるし、きちんと利益を出せるようになります」
Youtubeの配信を活用しながら、イベントの規模を徐々に拡大していき、DVDのパッケージでも映像は販売する……。無料配信とソフト化の二刀流という成長戦略は、他のジャンルのイベントやビジネスでも大いに参考になるはずだ。
<構成/古澤誠一郎>
【MC正社員】
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く