恩赦でどんどん死刑じゃなくなるタイでも9年ぶりに死刑が執行されて話題になっていた

 タイでは、死刑は終身刑の2倍の量刑という感じで考えられている。つまり、刑期の半分になる恩赦が一度出ると、一気に終身刑に減刑。もうこの時点で死刑囚ではなくなる。終身刑は100年とされるが、再び半分になる恩赦が出れば50年の有期刑になってしまう。こういった具合にどんどん減っていくのだ。殺人で死刑判決を受けても、平均で15年も収監されずに釈放となる。

タイは銃社会で容易に銃器が手に入る。巻き込まれることもあれば、自分が犯罪者になってしまうこともある

 ただ、タイでも恩赦が出にくい犯罪もある。それは、麻薬事犯だ。これに対してはタイは非常に厳しい。ヘロインは純物質がわずか20gでも密売と判断されると死刑判決が出る。一般的に麻薬は恩赦や特赦がないと言われるが、実際には数十分の1など、わずかではあるが減刑がある。

国王の誕生日は恩赦が出やすい

 そんな恩赦だが、出やすい日もある。それは、国王の誕生日だ。処刑場のあるバンクワン刑務所に十数年収監され、すでに釈放されて日本に生還した日本人の元囚人に、当時収監中の面会室で聞いたのは、前国王のときは誕生日の12月5日、王妃の誕生日8月12日が近づくと、囚人らの間ではどれくらい減刑されるかといった話題で持ちきりになる、ということだ。ちなみに、王室に死刑囚が嘆願書を送ると、精査中は執行がないという情報もある。  もちろん、恩赦は必ず出るわけではない。また、すべての罪状に適用されるとは限らない。いずれにしても、前国王が2016年に崩御し、新国王になったことで恩赦への方針、死刑執行へのゴーサインの出し方が変わったという見方もある。とすれば、今回死刑を執行された死刑囚は、単なるタイミングの問題だったのか……。この死刑執行に対してただちに国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」が非難の声明を出している。  ちなみに、日本でも報道されていてご存知の方も多いと思うが、タイは洞窟に閉じ込められたサッカー少年ら13人の救出劇に話題が集中していた。ちょうどタイ矯正局が死刑執行を発表した数日後に行方不明が発覚し、それ以来、メディアで死刑の話をしている人はほぼ見かけなくなっていた。9年ぶりの死刑執行がタイのSNSで大きく話題になったのは、死刑囚の人権云々というよりも、単にSNSの格好の話題だっただけなのかもしれない。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)> たかだたねおみ●タイ在住のライター。6月17日に近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)が発売
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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