死刑執行されたとされるバンクワン刑務所の正門
オウム真理教の教祖、麻原彰晃こと松本智津夫らついに死刑執行というニュースは、タイにいる筆者の周囲にも瞬く間に駆け巡った。
地下鉄サリン事件の当日に筆者は霞ヶ関にいて、警察や消防、自衛隊の活動を目の当たりにした。当時10代だったが、今や40代。長かったが、事件そのものも、また被害者にとってはまだ終わったわけではないだろう。
タイでも今年6月17日、26歳の死刑囚に対し死刑が執行されていた。久しくタイでは死刑がなかったこともあって、タイ国内でもSNSなどではこの話題で持ちきりとなっていた。この死刑囚は、2012年にタイ南部のトラン県でわずかな現金と携帯電話を盗むために、被害者少年(当時17歳)を24回もめった刺しにして殺害。死刑を宣告されていた。
この執行に対し、タイ人がSNS上で様々な批判を展開。執行が早すぎるというもののほか、多かったのは、幼児を強姦した男が死刑になっていないのに、といったほかの事件を引き合いに出す批判だ。
現在はタイの死刑は薬殺刑になっている。ギロチンでの斬首刑もあったがそれは1935年まで。その後2003年に薬殺刑になるまでは銃殺刑だった。
タイ矯正局のホームページによると、薬殺刑の執行は当日22時ごろまでに立会人などが処刑場に到着するという。タイの処刑場はバンコク都の北側に隣接するノンタブリ県の長期刑および死刑囚を専門に収監するバンクワン刑務所にしかない。その後、23時半に死刑囚に通告され、深夜0時、睡眠薬の投与後に神経筋接合遮断薬の臭化パンクロニウムと塩化カリウムを投与する。25分ほど注射に時間がかかり、すべてが投与されると数分で心停止になるのだそうだ。
銃殺は当然ながら残虐性もあるし、執行人の負担もある。筆者が印象に残っているのは、銃殺刑廃止時に最後の銃殺執行人である刑務官がテレビなどのインタビューで「もう人を殺さなくて済むからよかった」と笑顔で語っていたシーンだ。
タイはつい最近まで死体写真や映像がモザイクなしでメディアに出ていたほどで、日本人とは死生観が違う。日本人の目から見ると、タイ人はやや死に関して軽く見ているようにも思えるところがある。車の保険でも物損と人身では物損の方が補償額が高い商品が多い。それは別に軽く見ているわけではなく、信仰などによるものなのだろうが、日本から来た身にとっては充分意外に思えてしまう。
それでも今回の死刑執行にタイ人が過剰に反応していたのは、9年というブランクがあったからだろう。2009年、このとき6年ぶりに2人の死刑執行があったきりだったのだ。
ただ、このときは、同じような批判が起きなかった。それは、SNSが普及しておらず、個人が意見を発する場がタイにはほとんどなかったというのもある。
昼間から酒盛りをするタイのギャングたち。死刑執行された囚人と年代は同じ
9年ぶりと期間が開いたのには理由がある。それは、タイでは死刑判決を受けても長期収監のうちに死刑囚ではなくなってしまう囚人が多いからだ。
タイでも死刑判決は年に数件はあるとされる。殺人や麻薬の密売などで死刑判決が出やすい。しかし、タイは恩赦・特赦が多い。なにかあれば恩赦が出るのだが、それが結構なサービスセール並みの割合になる。麻薬以外の事犯では刑期が半分になることも多いのだ。