イーロン・マスクの「超大型ロケット」が米空軍に売れた理由と、その巨体に隠されたもうひとつの能力

ファルコン・ヘヴィは今年2月、赤いスポーツカーを火星へ向けて打ち上げ、世界を驚かせた (C) SpaceX

超大型ロケットのもうひとつの使いみち

 じつは、ファルコン・ヘヴィにはその強大な打ち上げ能力を、“ちょっと違う使い方”に応用することができる。  スペースXのロケットといえば、機体の一部(第1段機体)を回収して再使用できることでおなじみである。同社はこれにより、打ち上げコストの低減に挑んでいる。ファルコン9をもとに開発されたファルコン・ヘヴィも、もちろん再使用ができる。  しかし、ファルコン・ヘヴィはたしかに世界最強の打ち上げ能力をもつロケットだが、その威力を発揮できるのは機体をすべて使い捨てで打ち上げた場合である。機体を回収する場合は、回収のための燃料などが必要になるぶん、打ち上げ能力は落ちてしまう。その打ち上げ能力は、ファルコン9を使い捨てで打ち上げた場合よりも小さくなる。 「それならAFSPC-52も、わざわざファルコン・ヘヴィを使わず、ファルコン9を使って打ち上げればいいじゃないか」と思ってしまうが、しかし「あとに機体が残るか残らないか」という大きな違いが生まれる。  スペースXはファルコン9、そしてファルコン・ヘヴィの第1段機体を10~100回程度再使用することで、打ち上げコストの大幅な低減に挑んでいる。この「同じ機体を何度も再使用すること」が、コスト低減を実現する条件でもある。100回も再使用できる機体を使い捨てるのはもったいない上に、コスト削減を阻害することにもなるのである。  ファルコン9でも打ち上げられる衛星を、わざわざ超大型のファルコン・ヘヴィを使って打ち上げようとしているのには、こうした理由がある。

ファルコン・ヘヴィは機体の大部分を回収、再使用することができる (C) SpaceX

次のページ 
激化する市場競争
1
2
3