県の条例によって、種子の生産を継続することとなった新潟県の農業総合研究所作物研究センターでは、行う業務は「まったく変わらない」という
一方、県レベルで対抗しようという動きも出てきた。
新潟県、兵庫県、埼玉県は条例を制定し、県の公的機関が種子法廃止前と同じように種子の生産・供給が可能な体制を続けられるようにしたのだ。新潟県長岡市内にある農業総合研究所作物研究センターの担当者はこう語る。
「こちらで作っている種子は、コシヒカリや新之助など『推奨品種』14品種、それに準じる新潟次郎など『種子対策品目』9品目です。国の種子法がなくなって県条例となったので事務的手続きなどの変更はありますが、種子を生産・供給する基本的な業務自体に変わりはありません。これまで通りの多種多様な品種の生産・供給ができる体制は維持されました」
これら3県の条例制定は、日本の農業を守る貴重な取り組みとして全国に広がる可能性がありそうだ。
「種子法廃止の背景にあるのは
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)です。日本の多様な品種を守ってきた種子法は、TPPにおいては自由な競争を阻害する『非関税障壁』とみなされてしまうのです」と山田さんは解説する。そのうえ、「TPPでは
『遺伝子組み換え食品の輸入も促進する』となっている」というのだ。
弁護士でもある山田さんは現在、種子法に焦点を絞りTPP交渉の差し止め・違憲訴訟の提訴を準備中。すでに原告は700人を数え、今年8月には提訴の予定だという。
臼井さんの始めたシードバンク「種センター」では、カボチャや豆、トマトなど、棚ごとに在来種の野菜の種が保管されている
種子の輸入が途絶えれば「
日本ではほとんど野菜が作れないのが現状です」と印鑰智哉さん(「日本の種子を守る会」事務局アドバイザー)は危惧する。農水省は「知的財産権の保護」という点から、これまで原則OKだった自家採種を
原則禁止に転換する方針だ。つまり、そうした種子を自家採種したり共有したりすれば、犯罪となり重い罰則が科せられる(家庭菜園は除く)。
「種が落ちて芽が出て、実がなるというのが自然界です。自家採種禁止なんて常識では考えられない」と首を傾げるのは、長野県安曇野市で自然農の菜園を持つゲストハウスを経営する臼井健二さん。大企業の種に頼らない農業を行うため、’12年に在来種の種を保全する
シードバンク「種センター」を開設した。
「大企業の品種が席巻して多様な品種が滅ぼされる前に、自家採取可能な品種を保存しておかなければ」と臼井さんは語る。現在、200種以上の在来種の種子が保存されている。
「企業の種子の知的所有権を守るのであれば、伝統的な在来品種も守る法制度も必要だ」と、印鑰さんは強調する。「お米に関しても、まだ公共品種が99%を占めている今ならば、まだ十分に守ることができます」
一度失われた種子は、二度と戻ってはこない。これは、日本人の食にとって大きな転換点といえるのではないだろうか。
<取材・文・撮影/宗像充 横田一>
― いよいよ[日本の種]がヤバい! ―