則武里恵氏(パナソニック コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室)
――100BANCHが1年経ったが、今どういう状況にあるのか?
則武:この1年で67のプロジェクトが活動してきました。ナナナナ祭ではこの1年の活動の成果を少しストレッチする形で見せています。熱量を持った人たちが集まってきていますね。
――100BANCHは若い人だけの場所なのか?
則武:GARAGE PROGRAMだけを見れば35歳未満がリーダーとなっています。100BANCHは若い人と一緒に未来を作っていこうという場所です。たとえば、新しい人に興味がある、やってみたいけど躊躇している、新しいネタを探している、一緒にやる仲間になってくれる人が集まる場所になったらと思っています。一緒にできなくても、理解してサポートしてくれる人もうれしいですね。
――こうしたアクセラレーションプログラムはすぐに成果を求められることも多い。100BANCHはどうか?
則武:私たちは100年先を面白くするという結構長い時間をとってやっています。100年先まで続くことは人の文化レベル、生活に根差すものだと思うんです。
もちろんプロダクトもその1つですが、究極的には人の幸せになる何か、その本質的な価値を追求していきたいと思っています。
そのため、GARAGEの参加者はプロダクトに形を限っていません。今の時点ではビジネスにはつながらないけれど大事なことがあるはず。そういう人たちがエネルギーの赴くままに活動できる場所として100BANCHが存在できたらと考えています。
――一方で100BANCHの価値や成果について、パナソニックの社内に説明できなければ続かない。どう口説いているのか?
則武:今のところ、パナソニックからビジネス的な成果は問われていません。というのも、パナソニック自体が次の20年、30年の価値を考えていかなければならない時だからです。
私は、今の家電を中心とした領域の中だけで考えていたら突破できないことがあると思っています。その時にパナソニックの領域と何かを組み合わせていく相手として、100BANCHでの関係性が役に立つはずです。
100年先は誰にもわかりません。しかし未来は意思の塊で、意思を持って取り組んでいる人がこの場所にはいます。それをわかってもらうこと自体に意味があり、そういう人との関係が築ける場所をやることにすごく価値があると説明しています。リサーチでもあるし、未来への投資でもあるんです。
この日、100BANCHの3階ではナナナナ祭のトークセッション「AIは優しくなれるか」が開催されていた。夜のイベントということもあり、会場に詰めかけた参加者はビジネスパーソンが中心のようだった。
こうしたトークセッションは、スピーカーの話を聞くものが大半だが、イベントも後半になると、参加者も巻き込んだ討論会のような状態となっていた。「そもそも優しさとは何か」といったように、哲学的なテーマについて意見を戦わせている。
100BANCHとは何か? を語るにはまだ早いように感じた。ただここには熱があり、そこから大きなうねりが生まれそうな芽がある。100年後の未来に向けて、渋谷の片隅から大きな嵐が起こるのかもしれない。
<取材・文・撮影/津田啓夢>
エディター。一喜一遊、 一期は夢よただ狂え。ワクワクを食べて生きる人。演劇→写真→アート→メディア。企画、編集、動画、執筆&撮影、イラストのほか、イベントや広告企画なども幅広く手がける。趣味は手ぬぐい集め(地味)