武田、富士フィルム、ソフトバンク……日本企業による大型買収絡みの話題に垣間見える不安要素

 6月には米朝首脳会談が実現し、アメリカではFRBが利上げを実施。欧州でも量的緩和の縮小が進んでいる。時々刻々と変化する世界情勢のなかで、投資家はどう対応すべきか? 闇株新聞氏が4つのキーワードから注意点を抽出した。今回はそのうちの一つ、「大型買収」の話題から解説していただこう。
武田薬品工業

6月9日、7兆円でシャイアーを買収すると発表した武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長。だが、買収検討を発表した3月から株価は2割安の水準に

7兆円買収の武田と「米国撤退」のソフバンに不安材料

 ’18年前半は大型買収に関するニュースも耳目を集めました。その最たる例が、4月に発表された武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの買収です。買収総額460億ポンド(7兆円)は、日本企業によるM&Aとしては過去最大。ただし、マーケットは懐疑的な見方をしています。買収発表から1か月半で武田の株価は2割も下落。時価総額にして1兆円が吹き飛んでいます。買収に反対を表明している株主も少なくありません。その理由は買収効果と財務リスクにあります。  製薬会社の売り上げ規模でいえば、スイスのロシュが543億ドルでトップを走り、ファイザー、ノバルティスと続きます。武田は国内最大手ですが、世界では18位。買収完了後は8位あたりに浮上する見込みですが、シャイアーの主力薬品の特許は’20年代初めに切れると言われています。短期的な売り上げと利益を7兆円で買った、とも言えるのです。  武田には“前科”もあります。’08年には米バイオ医薬のミレニアムを9000億円、’11年にはスイスのナイコメッドを1.1兆円、’17年には米アリアドを6200億円で買収していますが、それほど利益に貢献していません。このような買収実績を考えると、シャイアー買収には巨額の減損リスクがあるように感じられて仕方がありません。  財務状況をみると、’19年3月期は4期ぶりの減益予想。シャイアー買収資金は4兆円規模の新株発行と3兆円超の新規借り入れによって賄う予定ですが、これにより有利子負債は1兆円から4兆円へと4倍に膨らみます。これでは、反発する株主が現れるのも仕方のないことでしょう。  株主の反発を受けて買収が行き詰った例としては、1月にゼロックス買収を発表した富士フィルムがあります。アメリカの著名投資家の1人として知られるカール・アイカーンなどの申し立てを受けてNY州の裁判所が買収を一時的に差し止めてしまったのです。ところが5月になって株主と富士フィルムによる買収後もゼロックスに残る予定の経営陣が電撃和解。さらに、その2日後に和解撤回……と泥沼の闘いを繰り広げているわけです。現状、反発している株主は一部にとどまるようですが、このままゼロックス買収が白紙に戻る可能性もあります。
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通信会社から投資会社となるソフバン
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