会社を辞めた人々の出口には「米作り」があった。「誰もが土を耕す」時代は、今よりもっと豊かになる

もう、農家さんだけに押しつけてはいられない

草刈り

畦の補修や草刈りも、大事な田んぼの作業だ(写真/倉田爽)

 田んぼだけではない。地方を旅するとき、道行く美しい風景が保たれているのは何故ゆえか。道路端など、農家さんたちが草刈りをしてくれているからだ。草刈りができなくなれば、森や林に戻ってしまう。それがすべて悪いことではないが、荒れてゆく過程は人々の心も荒廃させる。  人口が減少してゆく中で、かろうじて美しい田園風景を、その地元の高齢化する農家さんたちが労力を惜しまずに励んでくれているから、この国は美しいのだ。だがそれにも限界がある。行政に頼めば綺麗にしてくれるだろうか?  今でさえ追いつかないのに、財政が圧迫している中でそれを願うのは無理なこと。広大な農地と道などの、果てしない草刈り。これらをますます減ってゆく農家さんが担うには、危険な除草剤、農薬、化学肥料を今よりはるかに多く投入せねば追いつかない。さらに土が痩せ、水が汚染され、生き物は減り、消費者は安全でないものを口にするようになるだろう。
土に触れ笑顔に

土に触れて作業をしているうちに、誰もが自然と笑顔になっていく(写真/倉田爽)

 そう考えると、どんな答えが見えてくるだろうか。消費者がそこにコミットするしかない。「オーガニックを」「安全・安心の食べ物を」「自然を汚さない」「生き物を大切に」「国内自給率を上げよう」などと叫ぶだけで、それらを農家さんだけに押しつけるのは無責任。自分たちが少しずつやるしかない。そうやって、自らが消費者から脱するのだ。  かつて、この国に住む人たちの9割以上が百姓だった。誰でも米を作ることができたのだ。そして誰もが地域の草を刈り、道の草を刈り、類まれなる美しい郷土の風景をつないできた。口だけ、もしくは行政任せでは、もう間に合わない。  全国の3万人未満の小さな自治体の住民を合算すると総人口の約8%。しかしその面積は日本全体の約48%もある。日本の面積の半分近くを、たった8%の住民が支えている事実。国の世論調査では、20~30代の男女の30~40%が都会から地方に移住して暮らしたいと考えているという。それをアシストする政策こそが、今後は有効になっていくのだろう。
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田んぼに入ると目の輝きを取り戻す人々
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