注目される既存株主重視の増資法、「ライツ・オファリング」。投資家へのメリットとは?

ライツ・オファリング行使でどうなった? フージャースHDの場合

 前出した一部コミットメント型を行ったフージャースHDの事例でライツ・オファリングを行使した結果を検証してみよう。  フージャースホールディングスは、不動産開発事業、CCRC(Continuing Care Retirement Community、アクティブシニアをメインターゲットにするシニアマンション、介護保険)事業、戸建・アパート事業、不動産投資事業、不動産関連サービス事業などを手掛ける東証一部上場の企業である。今年1月19日開催の取締役会において、「一部コミットメント型ライツ・オファリング」を行うことについて決議し、2月から3月にかけて実施された。  その後、3月19日、フージャースHDは、一般投資家の新株予約権行使比率が94.9%になったと発表した。(参照:「第2回新株予約権の行使状況 一般投資家の最終行使状況及び取得に関するお知らせ」)  残存する新株予約権はフージャースホールディングスが取得し、主幹事証券のドイツ証券に譲渡した。ドイツ証券は22日までに全て行使した。調達総額は135億円になった。(参照:「第2回新株予約権の行使状況(全部行使終了)及び 発行済株式総数に関するお知らせ」)  調達総額は135億円になったため、フージャースホールディングスは予定通りの資金調達を実現できた。“本ライツ・オファリングによって調達した資金は、当社グループの①ヘルスケア・リート事業展開の基盤強化のための投資、及び②エネルギー事業への事業投資として、それぞれ75億円及び60億円を充当する予定“としている。  2月26日に提出された大量保有報告書により、旧村上ファンド系の投資会社オフィスサポートが同社の株式の5.39%の株式を保有する大株主に登場したことが注目された。株式の保有目的は「投資および状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為などを行うこと」とされている。5月30日、変更報告書が提出され、オフィスサポートは6.75%の株式を保有していることが判明した。  また、大和住銀投信投資顧問株式会社もフージャースを保有している。  資金調達の観点から、フージャースホールディングスにとっては、ライツ・オファリングは成功した。では、既存株主にとって、ライツ・オファリングは成功だったのであろうか?

既存株主にとってライツ・オファリングはどうだった?

 2018年3月期、フージャースホールディングスの親会社株主に帰属する当期純利益は、45億6400万円であった。フージャースHDは、5月14日開催の取締役会において、事業環境、業績の上振れ及び資金調達の実施等により、中期経営計画値を修正した。修正後、2021年3月期、親会社株主に帰属する当期純利益は、100億円を計画している。前期末の2倍以上になる。修正前は65億円の計画であった。(参照:中期経営計画及び還元方針の変更に関するお知らせ)  では、既存株主にとって短期的な利益はどうなのだろう?   6月14日終値は856円なので、ライツ・オファリングの前に、元々1000株保有だった株主は、50万円振り込んで、現在85万6千円となり、“新株だけについては”35万円6千円の含み益があることになる。  しかし、当然ながら“元々保有していた株について”、含み益があるかどうかは、株主による。同社は昨年末、1300円つけていた時期があった。その時に同社株を1000株買った株主は、ライツ・オファリングで行使したとすると、130万円+50万円=180万円の買入コストに対して、現在は2000株保有で、85万6千円×2=171万2千円なので、まだ含み損を抱えた状態となるからだ。  ゆえに、既存株主にとって、短期的には、ライツ・オファリングは必ずしも成功だったとは言えない状況ではある。  しかし、ライツ・オファリングによる資金調達資金を活用し、CCRC事業およびバイオマス発電事業に投資してリターンが拡大する修正後の中期経営計画から、2,3年後には、EPSが2倍程度になると予想されている。それに応じて株価も2倍になるとすれば、ライツ・オファリングで行使した株主は、全員含み益を抱えたハッピーな状況になれる可能性はある。ライツ・オファリングで権利行使した既存株主は、中長期的には、報われる蓋然性は高いのではないかと推察される。 <文/丹羽唯一朗>
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