大阪の熾烈な百貨店競争に「庶民派百貨店」はどう挑む?――全面リニューアルした「阪神梅田本店」を徹底解剖(2)

「インバウンドに頼らない」阪神の戦略は?

 オーバーストア状態となった大阪の百貨店業界だが、そうしたなか、売り上げを支えているのがインバウンド需要だ。  例えば、関西国際空港へのアクセス駅である南海なんば駅に出店する高島屋大阪店(本店)の2017年度の免税売上高は約240億円で、3年前の約5倍にも伸びており、これは全売上高(1414億円)の2割弱にも達する。もちろん、免税対象外品でも外国人による消費は伸びているといい、同店は66年ぶりに高島屋全店において売り上げ首位となった。  また、大丸心斎橋店(しんさいばしみせ、本店)では、南館に大型免税店「ラオックス」が出店しており、こちらも多くの外国人客が訪れる人気スポットとなっている。  しかし、こうしたインバウンド需要を存分に享受できているのは、観光地要素の強い大阪ミナミ(心斎橋・難波・天王寺の各エリア)の百貨店で、キタ(梅田エリア)の百貨店は引き続き地元民が顧客の中心だ。

66年ぶりに高島屋で売り上げ首位となった高島屋大阪店。関空へのアクセス駅である南海なんば駅に出店する

 阪神梅田本店もキタに立地することから、ミナミの各百貨店ほどインバウンド客の比率が高いわけではない。新・阪神百貨店が想定する主な顧客もあくまで「地元客」であるといい、そのうち今回とくに目指したのが「地元・梅田で働く30代から40代のOL」(なかでも阪急阪神百貨店が「西梅田OL」と呼ぶ働く女性層)を新規に取り込み、日常的に来店してもらうことだという。  これまでの阪神百貨店は、永年のライバルであった阪急百貨店に比べると顧客の年齢層も高めで、どこかほのぼのとした雰囲気を感じさせられる売場も多く、地階ではサンダル履きで談笑をする大阪マダムたちの姿も見られた。一方で、周辺のオフィスで勤務する「西梅田OL」は、徒歩圏にある阪急百貨店や阪急系列のファッションビル、そしてJRの大阪駅ビル「ルクア」などで買い物することが多かった。  こうしたOL層の取り込みを目指した改革の象徴と言えるのが、食品売場を大幅に拡大し、これまで婦人雑貨などが販売されていた1階の大部分も食品館としたことだ。1階には新たに人気のベーカリーを集めた「パンワールド」や、約400種類のワインが試飲できる「リカーワールド」が展開されたほか、アメリカ初のハンバーガーレストラン「Shake Shack」の関西初店舗も開設された。

人気チェーンの関西初店舗を1階に配置、若年層やビジネスマン・OLを取り込む(Shake Shack)

 この「パンワールド」は、時期によってテナントが変わる催事形態の店舗が多いことも特徴。「食パンのセレクトショップ」は、1週間あたり約30のベーカリーから日替わりで毎日15種類の食パンが並ぶなど、日々の変化が楽しめるコーナーとなっており、「毎日来店したくなる」売場づくりがなされている。  取材に応じた同店の販売促進部ゼネラルマネージャー・松下直昭氏(以下、松下GM)によると、こうした「日替わり」売場も阪神の特徴の1つであるといい、同店のコンセプト「毎日が幸せになる百貨店」を象徴したものだという。

日替わり・週替わりで話題のパンが登場する「パンワールド」

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グループ企業の「阪急百貨店」との棲み分けは?
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