軍隊廃止、エコツーリズム発祥etc.世界の注目を引きつける広告戦術の伝統
軍隊廃止記念式典にて、陸軍司令部要塞の壁をハンマーで撃ち壊すホセ・フィゲーレス氏。この写真は世界中に配信され、現在でもコスタリカの国家戦略を表す1枚として受け継がれている
遡ること70年、1948年にホセ・フィゲーレスが軍隊廃止を宣言した時も、コスタリカは「丸腰国家になるのだ」という印象を世界中に強く与える、大々的な広告戦術を打った。言葉で宣言するだけでなく、陸軍司令部要塞の壁を大きなハンマーで打ち砕くパフォーマンスを行ったのだ。そのシーンは世界中に配信され、現在でもインパクトを保ったままだ。
また、要塞の鍵を文化庁長官に渡し、国の資源を軍隊から教育や文化に振り分け直すことを印象づけた。以後現在まで「コスタリカは軍隊を持たず、教育や福祉に投資している」という印象を多くの人が持っているのは、事実関係もさることながら、その広告的手法が効果的であったことを如実に示している。
1980年代から推進した「エコツーリズム」にしてもそうだ。エコツーリズム的な概念や実践は、それより前から世界のあちこちで行われていたはずだ。だが、コスタリカは「エコツーリズム発祥の地」として世界に知られている。
それは、コスタリカがその「名づけ親」になったこと、国を挙げて制度面の整備まで含めてエコツーリズムの定義を作ったこと、そして「エコツーリズム」という修辞句を使って世界中の観光客を呼び込んだ広告戦術を展開したことの結果なのだ。
ちなみにそれは、1987年に中米和平交渉が妥結し、隣国ニカラグアの内戦をはじめ、地域安全保障体制の行く末にある程度道筋を作ったからこそ本腰を入れられたことでもあった。
つまり、「丸腰国家」の次の戦略は「エコツーリズム国家」だったことになる。事実、20世紀末の主な外貨収入源はコーヒーやバナナといった一次産品の輸出と並んで、観光部門が大きな割合を占めるようになっていった。
コスタリカが辺境の貧しい小国から世界の注目国にステップアップしていった背景には、国の長期戦略を世界に広める巧みな広告戦術の伝統があるのだ。
奇跡を呼び込む努力は、目標を宣言し、その広告をすることから始まる
コスタリカの再生可能エネルギーによる発電率はほぼ100%。地熱発電所(写真下部)近くの山の尾根には、近年伸びが著しい風力発電の風車が立ち並ぶ
そんなコスタリカが次に設定した長期戦略が「再生可能エネルギー発電100%」と「カーボン・ニュートラル」の達成だった。
幸か不幸か、その2つの戦略目標を謳った2007年の「アリアス宣言」はあまり注目されていなかった。しかも、現在ほぼ達成したと言われている(厳密にはまだなのだが)再エネ発電100%ですら、2010年の段階では「目標年度までの達成は無理ではないか」(環境エネルギー省担当者)とも言われていた。それでも、官民を挙げてこれらの目標に日々取り組んできた。
結果的に、タイミングよくパリ協定妥結と再エネ発電(ほぼ)100%達成が重なった。ただ、「それは単なる偶然」と一笑に付すことができる話でもない。各分野での継続的な努力がなければ、どちらも達成できなかっただろう。努力が呼び込んだ奇跡といってもいいだろう。
そしてこれら国レベルの戦略は、すべて大々的に「目標を宣言すること」から始まっている。さらに、単に宣言するだけでなく、象徴的なパフォーマンスを付加して世界中に発信する。それがコスタリカの一貫した広告戦術であり、常に目標を達成する第一歩となっている。