「世界初の脱炭素国になる」と宣言したコスタリカに学ぶ「インフルエンサー」になる方法

 今年5月、コスタリカで就任した新大統領が仰天プランをブチ上げ、また世界を驚かせている。軍隊を持たない「丸腰国家」コスタリカの次の一手から、辺境の貧困国だったコスタリカが世界の「インフルエンサー」(影響力を与える者)になれたワケを読み解く。

「カーボン・ニュートラル国」を目指すことを、強く印象づけるパフォーマンス

カルロス・アルバラード

大統領選中のキャンペーンで、「コスタリカを世界初の脱炭素国にする」と訴えるカルロス・アルバラード氏

 5月8日、第48代コスタリカ共和国大統領に就任したカルロス・アルバラード氏は、その就任演説で、コスタリカを「世界初の脱炭素国にする。一番でなくとも、脱炭素化する第一グループの国となる」と高らかに宣言した。  細工も流々だ。野外で行われた就任式典に臨むにあたり、世界各国の賓客が集まる会場に水素バスで乗りつけ、気候変動担当部局の新しいリーダーの「就任式」まで執り行った。「コスタリカの今後の最重要目標は、気候変動対策である」ということを世界に強く印象づけるパフォーマンスは、大成功に終わったといっていいだろう。  例えば、ゲストとして大統領就任式に参列したボリビアのエボ・モラレス大統領は、「地熱発電はすごい。ボリビアでも考えたい」など、さっそく感化されたようなコメントを漏らしていた。  式典を生中継していた現地テレビメディアでも、新大統領が気候変動対策に関してスピーチの多くを割いていたことに注目。外国メディアでもコスタリカの「次なる野望」が一様に報じられた。たとえば英ガーディアン紙(ネット版)には、コスタリカを「未来の希望の誘導灯である」と手放しで讃える記事も掲載されている。

実は、10年以上前から伏線があった

 非常に野心的と思えるこの戦略目標は、実は以前から伏線があった。2007年、当時のオスカル・アリアス大統領が、2021年までに「再生可能エネルギー発電100%」と「国レベルでのカーボン・ニュートラル」を達成するという目標を宣言(アリアス宣言)したのがそれだ。  そのうち前者は、2015年に実績ベースで約98%に達し、ほぼめどをつけた。ちょうど同じ年の12月にパリ協定が結ばれ、世界中のほぼすべての国が気候変動対策に本腰をいれることで合意した。  しかも、パリ協定の枠組みである「気候変動枠組条約締結国会議」の事務局長は、1948年に同国で軍隊廃止を宣言し、「丸腰国家」の始祖ともいえるホセ・フィゲーレス元大統領の娘、クリスティアーナ・フィゲーレスだった。これらの要素が重なり、コスタリカが「再エネ100%国」であるというイメージは一気に世界中に広まったのだ。  その一方で、実はカーボン・ニュートラル政策は遅々として進んでいなかった。正確には、進めてはいたのだが、現状があまりにも厳しすぎて目標に追いついていなかったのだ。例えば、排出される炭素の過半を占める輸送部門では、毎年の新車登録台数が新生児の登録数を上回っていることが現地でも話題になっている。  そこでアルバラード氏はあえて、大統領就任式という世界が注目する場とタイミングで大見得を切った。実際は2021年までの達成はほぼ不可能と考えられ、当初目標より後退しているはずなのだが、その点はあまり注目されずに称賛ばかりが目立った。そこに、コスタリカの広告戦術のうまさがある。それは伝統的に培われたものだった。
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世界の注目を引きつける広告戦術
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丸腰国家

コスタリカが中米という不安定な地域で軍隊を持たずにやってこられたのはなぜなのか?「理想」ではなく「現実」のもとに非武装を選択した丸腰国家コスタリカの実像に迫る。