野党の「審議拒否」は「サボり」なのか?

まちゃー / PIXTA(ピクスタ)

 4月下旬からの国会における野党の「審議拒否」について、多くの賛否両論が巻き起こっています。筆者はツイッター(@TanakaShinsyu)で政治・行政の解説ツイートをしていますが、そこにも様々な質問や意見が寄せられました。そこで、野党の審議拒否をめぐる論点について、国会研究者の視点から解説します。 Q1:国内外に重要課題が山積するなか、野党の審議拒否は政府の足を引っ張るもので、反日行為じゃないのか? A1:確かに、歴史的な韓国・北朝鮮首脳会談が行われるなど、国内外に重要課題が山積しています。そうした重要課題への対応が待ったなしの状況にあるのは、与野党を超えて同意できるでしょう。  問題は、政府がそうした問題に対応するとき、果敢な決断をしようとする時ほど、ある程度の野党からの支持も含め、有権者の広範で力強い支持が必要になることです。そうでなければ、重要な法案を成立させることが難しかったり、外交で相手国に足もとを見られて交渉力が弱まったりするからです。  それには、政府への信頼が不可欠です。少なくとも、野党議員や支持者が、積極的に賛同しないまでも、理解をするという程度には必要です。政府はウソをつかず、誠実に仕事をしていると。  しかし、森友学園、加計学園、防衛省日報、福田次官セクハラ等の各種問題は、政府への信頼を大きく揺るがせています。例えば、産経新聞・FNNによる4月の世論調査では、内閣支持率が38.3%、不支持率が54.1%となっています。しかも、首相の人柄を評価しないが46.0%、首相の指導力を評価しないが50.9%と、安倍首相への信頼が大きく揺らいでいます。  したがって、国内外の重要課題に対応するためにも、まずは政府への信頼を早急に回復させる必要があります。そのためには、信頼喪失の原因の責任者を更迭し、情報を徹底的に公表した上で、再発防止策を講じる必要があります。もちろん、それを求める野党は、政府への信頼回復を最優先しているので「反日行為」にあたりません。  ちなみに、政府への信頼を喪失している人々に対し、政府を支持すべき(あるいは「日本から出ていけ」など)と強く迫るのは逆効果で、人々の間の分裂を深め、重要課題への対応をより難しくするだけです。 Q2:国会は立法府なのだから、国会審議に出てこないのはおかしい。野党議員の「サボり」ではないか? A2:国会は、立法府であると同時に、国権の最高機関です。国権の最高機関として、首相を指名し、内閣は国会に連帯して責任を負います。これは、内閣の存続には国会の信任が不可欠で、国会には内閣を常時チェックする責務があることを意味します。  国会は国権の最高機関として、大きく2つの視点から内閣をチェックします。①内閣が適切に行政を管理・監督できているか。②内閣の方針・政策・予算は適切か。①は与野党共通の役割です。一方、②はもっぱら野党の役割です。  チェックの大前提は「内閣とそれを支持する国会多数派」(=政府与党)が国会に対して誠実に対応することです。すなわち、質問に真正面から答弁し、提出する議案の論理・根拠を明確にし、求められた文書や情報を提出することです。そこにウソやフェイクが混じれば、チェックは困難になるからです。  ならば、政府与党が国会に対して誠実に対応していないと、野党が認識したときには、どうやってそれを是正すればいいのでしょうか。  現在の国会の慣行では、野党の取れる手段は極めて限定されます。国会審議で追及しても、そもそも答弁等に信頼がおけないのですから、意味はありません。内閣不信任案を提出する手もありますが、一国会で一回しか提出できず、しかも多数派の与党に否決される可能性が高いです。議長や議院運営委員長に改善を求めても、与党議員のポストとなっていますので、言うだけに終わる可能性も高いのです。  そこで、野党はやむにやまれず、審議拒否という手段に出ることになります。政府与党の国会対応に、重大な問題があるという主張を可視化して、世論を味方につけるのです。  逆に、審議の前提が整っていないのにもかかわらず、安易に審議に応じれば、政府や法案のチェックを十分にできず、問題ある法律を成立させて、人々に害をもたらすかもしれません。例えば、工場の生産ラインで、モニターが異常を知らせれば、原因追及と改善策を講じるまで、生産ラインをストップさせます。操業を続けると、大量の不良品を製造してしまい、大損害を発生させるおそれがあるからです。生産ラインのストップで生じる損害は、やむを得ないものと見なされます。これと同じ論理です。  よって、審議拒否は「サボり」ではないのです。むしろ、国会のあり方を正常化したり、政府の信頼を回復したりするための、国権の最高機関における少数派議員としての「仕事」なのです。  もちろん、すべての審議拒否が、野党の「仕事」といえるわけではありません。その是非は、他に手段のない、やむにやまれぬ行為かどうか、ケースバイケースで判断する必要があります。
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野党の審議拒否は「仕事」
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