野党の「審議拒否」は「サボり」なのか?

Q5:今の野党は「何でも反対」だから、与党が歩み寄っても意味がない。自民党のような政党が「健全野党」として存在していれば、こうならないのではないか? A5:野党は「何でも反対」でなく、正確に言えば「2割反対」です。共謀罪で激しく対立した昨年の通常国会では、77法案が成立。うち民進党は62法案に賛成、共産党は33法案に賛成。民進党8割、共産党4割の賛成率です。かつては旧民主党9割、共産党7割賛成くらいで、これでも賛成率が下がったくらいです。詳細は参議院HPで確認できます。  ちなみに、自民党が野党だった2010年の通常国会では、52法案が成立。うち自民党は40法案に賛成しました。8割弱の賛成率となります。となれば、今の野党を「何でも反対」というならば、自民党が野党だった時も「何でも反対」だったことになります。  審議拒否については、自民党が野党だったときもしばしば行われていました。木下健氏の論文「過去 20 年間の衆参予算委員会における与野党対立構造の分析」によると、福田・麻生内閣(自民党)の2008年の予算委員会空転割合は0.35で、菅・野田内閣(民主党)の2011年の予算委員会空転割合は0.38でした。本論文を見ると、どの党が野党だったということよりも、衆議院と参議院の多数派の違い(ねじれ国会)のときに審議拒否が増える傾向と分かります。 Q6:野党が審議拒否をするなら、政府与党が好きなだけ審議を開催し、どんどんと政府法案を成立させてしまうけど、それでいいのか? A6:そこが、審議拒否の難しいところです。野党とすれば、国会の基本的な役割や審議の前提が損なわれているからこそ、改善や責任を求めて、やむを得ない手段として審議拒否をするのです。  一方、政府与党は国会多数派ですので、与党だけでも審議を開催できます。そうやって、野党のチェックを受けずに、都合よく法案を成立させていくことも可能です。  焦点は、国会のそうした状況について、有権者がどのように捉えるかです。野党のわがままによる「審議拒否」と捉えるか、政府与党の暴走による「強行審議・強行採決」と捉えるか。前者であれば、政府与党が好き勝手に法案を成立させることを助長してしまいます。後者であれば、政府与党が「強行審議・強行採決」するほど、世論の反発が強まり、与党議員の間に動揺が広がり始め、政府による対応を求める声が与党内から上がってくるでしょう。場合によっては、与党議員たちが首相や大臣を辞任させようとすることも考えられます。実際、過去の自民党政権では、野党の審議拒否などの抵抗にあって、与党内から倒閣の動きが盛り上がったこともありました。  そして、最終的には、有権者の選挙での判断で決まります。もちろん、有権者は選挙まで何もできないわけではありません。野党の「審議拒否」と捉えるか、政府与党の「強行審議・強行採決」と捉えるか、いずれにしても、各党や議員たちに自らの意見を伝えることは大切です。伝え方は様々にありますが、もっとも簡単なのはメールです。ぜひ一度、ご自身の意見を直接、伝えてみましょう。 【各政党の意見送付フォーム】 自民 https://www.jimin.jp/voice/ 公明 https://www.komei.or.jp/contact/ 維新 https://o-ishin.jp/contact/ 立憲 https://cdp-japan.jp/form/contact 希望 https://kibounotou.jp/contact 民進 https://www.minshin.or.jp/form/contact/request 共産 https://www.jcp.or.jp/web_info/mail.html 自由 ※現在はリンク切れ 社民 http://www5.sdp.or.jp/central/inq/inq.htm <文/田中信一郎> たなかしんいちろう●千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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