生ハム生産で知られる「インカルロプサ」、中国企業が買収を検討

インカルロプサ社のサイト

 中国企業がドイツで技術の先端にある企業を買収していることについて、ドイツ政府はEU域内で急増している中国投資を監視する法案を検討していることが報じられるなど、急成長する中国経済にEU諸国も警戒を強めている。  そんな中、4月16日のスペイン各紙は香港に本社を構えるKam Fung Group(錦峰集團)が、世界でも最大級の生ハム生産量を誇り、日本への輸出も行っているスペインの豚肉加工食品メーカー「インカルロプサ(Incarlopsa)社」を買収することに関心を示していることを報じた。  今回の買収について、Kam Fungはインカルロプサ社の株95%を取得し、その買収額は10億ユーロ(1300億円)になると見込んでいるという。(参照:「Cinco Dias」)  Kam Fung Groupの主要業務は投資で、豚肉加工食品の業界に関与した経験はこれまでない。しかし、中国市場での豚肉の消費は盛んで、それに応えるべく中国向けのサプライ業者としてインカルロプサ社がその対象にされたようである。

インカルロプサ社の置かれた「板挟み」

 中国企業がスペインの企業を買収するということ自体は、もはや珍しいことではなく、それ程の注目は集めない。ところが、インカルロプサ社はスペインのスーパーマーケットチェーンでは最大の売上を堅持しているメルカドナ(Mercadona)に同社の生産品の75%を納品している企業なのである。その企業をKam Fungが買収しようとしていることから各紙が注目したのである。  スペイン電子紙『elEconomista.es』によると、同じく中国のFosun International(复星集团)が昨年インカルロプサ社と接触して同社に資本参加する為の交渉がもたれたことがあったが、会社の資産評価などで合意に至らず交渉は成立しなかったという。  というのも、インカルロプサ社の2016年の年商は5億3000万ユーロ(690億円)で、その75%に相当するおよそ4億ユーロ(520億円)がメルカドナとの取引額なのだ。  この買収が仮に実現した場合、メルカドナがこれまで仕入れていた商品を中国企業が経営権を握ることになったインカルロプサ社から買い付けることを素直に受け入れるか疑問だということがスペイン経済界では大方の見方なのである。スペインで最も優良な企業の1社とされているメルカドナと取引を望んでいる生産業者はどの商品においてもいくらでもいるというのがその理由のようだ。
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依存か、新たな道か
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