2022年に「宇宙ホテル」が開業? お値段は12日間で10億円、米ベンチャーが発表

まずは市場調査と国の需要が目的?

 オライオン・スパンがこのような計画を発表した背景には、まず潜在的な顧客となる富裕層からの反応を見ることが第一にあるのだろう。少額のデポジットを用意していることからも、「潜在的にこれだけの顧客がいる」という数字を出し、投資家などにアピールする狙いがあると考えられる。  また、前述のように宇宙旅行に使える手頃なロケットと宇宙船がない以上、まずは宇宙ホテルとしてではなく、米国や欧州、日本などの国の宇宙機関の宇宙飛行士の滞在や、研究機関や企業などからの宇宙実験などといったことから始まることになろう。  現在、米国など世界各国が共同で運用している国際宇宙ステーション(ISS)は、老朽化が進んでいることもあり、2020年代のうちに運用を終えざるを得なくなる可能性が高い。NASAなどは月を回る軌道に新しい宇宙ステーションを建造することを検討しているが、いずれにしても、現在ISSで行われているような飛行士の滞在や、研究機関や企業が実施している宇宙実験などはできなくなる。  しかしオーロラ・ステーションがあれば、NASAなどの宇宙機関から委託を受けて、飛行士の滞在や宇宙実験を事業としてできるようになる。宇宙飛行士の訓練の合理化もまた、従来NASAなどの施設で行われたものに取って代わることができれば、そこでも利益が生み出せるかもしれない。  とくに米国では、「民間にできることは民間にやらせる」という方針の下、宇宙開発の民間への開放が進んでいる。すでに貨物を輸送する無人船や、宇宙飛行士を運ぶ有人宇宙船、それらを打ち上げるロケットの開発や運用は民間が担っている。スペースXやボーイングが宇宙船を開発しているのもまさにその方針があってのことである。そして宇宙ステーションの分野でもまた、同じ流れを歩むことになろう。  まずはそうした国が主体となる事業をこなし、実績も作りつつ、ロケットや宇宙船のコストが下がったころに、本格的に宇宙ホテルとしての活用も始めるというのが、彼らの思い描いている未来予想図なのかもしれない。  たとえその目論見がうまくいっても、私たち庶民が宇宙ホテルに行ける日はまだ当分先のことになるだろう。それでも、そんな日が少しずつ近づいてきているのは確かである。

オーロラ・ステーションの想像図 Image Credit: Orion Span

<文/鳥嶋真也> 宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行っている。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。 Webサイト:http://kosmograd.info/ Twitter:@Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info) 【参考】 ・First-Ever Luxury Space Hotel, Aurora Station, to Offer Authentic Astronaut Experiences(https://docs.wixstatic.com/ugd/8e3cbb_cd88361473594115b5e4b765430c7ef3.pdf) ・Orion Span Announces Aurora Station(https://www.orionspan.com/aurora-station-announcement) ・Orion Span | First Four Months of Reservations Sold(https://www.orionspan.com/first-four-months-sold-aurora) ・Orion Span’s Aurora Station(https://www.orionspan.com/aurora-station) ・Aurora Space Station Reservations(https://www.orionspan.com/aurora-station-reservations
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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