国会の答弁に対して役人が責任をとるなら、国会はいらない
菅野:先にも触れましたが、政府はいま佐川さんがやったというだけで幕を引こうとしています。しかしこれはやはり政治責任を問わざるを得ない。
【福島のぶゆき氏】1970年茨城県生まれ。通商産業省(現:経済産業省)を経て2003年に民主党から衆議院議員選挙に出馬。2009年に衆議院議員に。2017年、10月の第48回衆議院議員総選挙では希望の党から茨城1区で出馬するも惜しくも落選。
福島:国会審議とは国会議員同士でやるものです。野党なり与党なり、質問するのは国民によって選ばれた議員と、国民によって選ばれた議員が政府の中に入っていった大臣とであるのが大原則です。ただ、技術的な話は大臣では答弁しきれないので、それを補佐するものとして局長が答弁する。佐川さんを指名して答弁してもらっているのではない。原則、全部政治家の答弁です。
したがって、局長の答弁は全部大臣官房がチェックする。大臣官房は読んで字のごとく、大臣のスタッフです。つまり、大臣ならこう答弁するだろうというのを局長に答弁させているのであって、佐川さん個人の答弁ではない。あれはまさに大臣の答弁を代わりに佐川さんがしているわけです。佐川さんの答弁は大臣の答弁なのです。
菅野:質問主意書なり、通達は大臣宛に出ているわけですしね。
福島:そうです。質問は全部大臣宛です。だから佐川さんだけの責任というのはあり得ませんし、国会の答弁に対して役人が責任を取るということ自体が、国会は自ら意味がありませんと言っているようなものじゃないですか。役人が責任をとるなら、選挙なんていらないですよ。立法府は国権の最高機関であって、その人間を国民が選ぶから民主制度は成り立つわけです。国会の答弁の責任をとるなんてことをしたら、国会はいらないことになる。
菅野:辞めるために政治家になるという名言があるように、政治家の責任のとり方は辞めることしかないわけです。一部では安倍首相には類は及ばなくて当然だ、といった論調もありますが、政府なわけですから、その代表者がやはり責任をとるべきだと私は思います。
福島:そこは安倍さんの心を推し量りますと、俺は関係ない、ただどうも嫁がまずいらしい、ということだと思います。安倍さんの奥さんに力があるのは総理夫人だからであって、そういう意味では総理に責任があります。しかし総理からすると、あの土地を安く売れと自分が指示していたのだったら、仕方ないかと思うけれども、嫁さんの不始末を詫びるのは割り切れない。よく「妻に聞いたが、そういう発言はしていません」と答弁していますが、おそらく聞いてないと思います。そもそも奥さんは捕まらないのです。夜も一緒にいないし、同じ部屋で寝ていないんじゃないですか。くだらない夫婦の話のように思うけれど、逆にそれくらい夫婦間の問題が国家を動かしているとも言えます。
菅野:とはいえ、いま野党はいわゆる寝ている状態で審議拒否しています。このまま行くと政府は政治責任をとりそうにない。野党あるいは自民党の中、というか国会がきちんと国家を作り直すためには、今後、どういう議論を国会でなされるべきで、どう組み立てていくべきだと思いますか?
福島:その前に、野党は少しおっかなびっくりしているかなと見ています。場合によっては解散になる可能性もあって、それを野党は恐れている。内閣が自発的に総辞職などしません。解散か総辞職か迫ったとき、はじめて総辞職という道が生まれる。それはどういうときかというと、残念ながら、野党に追い詰められてではありません。与党の中で、こんなところで解散を打たれたらたまらない、議席を失ってしまう、だったら安倍を降ろせ、とならないと、総辞職にはならないのです。
そこで野党が動くことによって与党をどう動かすかが大事になってくるわけですが、そういう動きを野党はしているでしょうか。単に審議拒否だとか、財務省の役人を呼んで吊るし上げるだけでは政局は動きません。9月には自民党総裁選があって、自民党の中で政局が起きやすい。安倍的なものを放置することは自分たちの首も絞めることなのだということを、与党の人とどうつるんでやって与党の人に花をもたせるかが大切ではないでしょうか。
菅野:自民党の総務部会が、官邸にこれは異常事態だと異例の申し入れをしていましたから、自民党の中にもわかっている人はもちろんいる。
福島:ですから野党の国会対策の幹部は、手分けをして与党の各派閥の幹部連中と腹を割って話すことです。オモテの国会対策委員会や議員運営委員会で議論するだけでは何も進まないと思います。
菅野:昔の国対政治をきちんとやらないといけないというわけですね。
福島:そうですね。このまま安倍政権が続くことは害だと思います。要は森友学園と同じように、いまあちこちで役所から悲鳴が起きているわけです。官邸からこんな無理難題を押し付けられたとか、本来のルールを歪めるようなことを要求されて仕方なくやったといった話は、加計の問題でも森友の問題でもペジーのスパコンの問題でも、全部内部から悲鳴が出ている。今回の財務省の、不幸にして亡くなられた方も、内部からの悲鳴です。やはりこうした構造をこのまま放置すると、また死者を出しかねない。私が現職のとき、こんな無理難題が官邸からあって大変だったという話は、酒を飲んだときとかに、実はいろいろな人から聞いていました。
菅野:経済産業省だけでなく?
福島:文科省も然り、農水省も然り。その構図を暴いて、その不健全さを知らしめないといけないと思う。なぜそれが起きたかというと、やはり、与野党問わず、国会の機能不全です。官邸の一部の官僚たちが全部の権力を握っていることの歪みだと思います。
菅野:たとえば、今井さんの周辺が全部仕切ってしまうということでしょうか。
福島:はい。
菅野:それが合理的・効率的かという議論で、それを是としてしまう人がいるのですが、それは本質的な議論ではない。国家の運営、ガバナンスということでは、やはりみんなで国会で揉まないといけない。
福島:それもそうですし、官邸に行っている官僚がそんなに優秀かといったら、はなはだ疑問です。これは言っていいのかわかりませんが、今井秘書官という方は哲学とか歴史などの本を読んでいるように思えません。自分で作る政策もない。人が作った政策を政治に売り込んで実現させたり、メディアに出したりするのは上手です。ただ、菅野さんのこの事務所にあるような立派な本なんかは……ときどき怪しげな本もありますけど(笑)、そういう本を彼は読みません。興味もない。経済学も深く勉強していないから、「リーマンショック級の危機が来るから消費税増税延期」などということも言えるわけです。
そこは総理も官邸官僚も似ているところがあります。決定的な知的教養の欠如です。だからとんでもないことをやっているのだけれど、とんでもないことをやっているという恥じらいや、罪の意識が生まれない。それが今の日本の権力構造の一番の問題だと私は思います。
菅野:言ってしまえば、反体制分子に官邸と国会を乗っ取られたと。
福島:そういうことです。だから、何が保守かということなんです。