スカパーJSATがAmazon・ベゾスの”青臭い”ロケットに興味をもった理由とは

なぜ日本のロケットは選ばれないのか?

 ところで、実はスカパーJSATは、日本企業でありながら、日本の三菱重工のロケットを使ったことがほとんどない、ということは書いておかねばならない。  昨年、三菱重工のH-IIAロケットでスカパーJSATの衛星が打ち上げられてはいるが、これはPFI方式で防衛省から運用などを委託された防衛用通信衛星であり、官需衛星は日本のロケットを優先するという前提があるので、純粋な意味での商業衛星の商業打ち上げではなかった。これを除けば、スカパーJSATの衛星はこれまですべて、欧州や米国、ロシア、ウクライナのロケットで打ち上げられている。  スカパーJSATがなぜ、打ち上げまでの調整や意思疎通がしやすいはずの、同じ日本の三菱重工のロケットを使わないのか。その理由を、同社は公には口にしたことはない。  ただ、前述のように、衛星会社がロケットを選ぶ基準としては、価格と信頼性、そしてスケジュールの柔軟性が重要視される。このうち信頼性については、現時点で日本のロケットは世界的に高く評価されている。したがって、価格か柔軟性、もしくはその両方の点から選ばれることがなかったと考えることができる。  実際のところ、H-IIAロケットが他の同性能のロケットより高価であることは三菱重工自身も認めており、とくにファルコン9や、(まだ登場していないが)ニュー・グレンと比べると大きく水をあけられている。また、発射場などの問題から、H-IIAロケットは2か月に1回程度の頻度でしか打ち上げられず、さらに情報収集衛星などの官需衛星の打ち上げ需要が多いこともあって、打ち上げ時期の柔軟性も低い。どれくらいの程度かはわからないが、スカパーJSATがかたくなにH-IIAを使わないということは、それだけ深刻なものと見ることができる。  ただ、三菱重工は現在、JAXAと共同で新型ロケット「H3」を開発中で、ニュー・グレンと同じ2020年ごろのデビューを予定している。打ち上げ能力ではやや劣るものの、標準的な通信衛星なら十分に打ち上げられる能力をもち、価格も現行のH-IIAの約半額を目指すとされ、製造工程の見直しなどで打ち上げ頻度も高まる見通しである。  はたしてその性能は、ロケットの目利きであるスカパーJSATの御眼鏡に適うものになるのだろうか。そしてブルー・オリジンなどと共に、同社の選択肢のひとつになることはできるのだろうか。

三菱重工とJAXAが開発中の次世代ロケット「H3」の模型(中央)(筆者撮影)

<取材・文/鳥嶋真也> 宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行っている。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info) 【参考】 ・スカパーJSAT株式会社 – 宇宙開発企業ブルー・オリジン社との合意書締結について(http://www.jsat.net/common/pdf/news/news_2018_0313_jp.pdf) ・Blue Originさんのツイート: “We continue to fill our #NewGlenn order book – we are honored to sign an agreement w/ SKY Perfect JSAT to take their geostationary satellite to orbit.… https://t.co/oo6ZzHShyA”(https://twitter.com/blueorigin/status/973291389864890368) ・Blue Origin | New Glenn(https://www.blueorigin.com/new-glenn) ・スペースXでの衛星打ち上げに関して(http://www.sjac.or.jp/common/pdf/kaihou/201607/20160703.pdf) ・宇宙・衛星事業 | スカパーJSAT株式会社(https://www.sptvjsat.com/business/satellite/
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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