日本人の”マスク愛”の根源は何なのか? その周辺にある感情を探ってみた

急速に浸透しはじめた黒マスク

 こうした「色付きマスク」に言及すると、無視できないのが昨今広がる「黒マスク」の存在だ。  滞在していたニューヨークでは、ここ数年の間、急激に黒いマスク姿が目立ち始めた。そのほとんどは韓国・中国系アジア人だったのだが、日本に帰国してみると、想像以上にこの黒マスクが日本人の間にも浸透し始めていることに驚かされる。  今回、日本人150人に「黒マスクをしたことがあるか」と問いかけたところ、「ある」と答えたのは29人。約5人に1人が、黒マスク経験者だった。 「ない」と答えた人にその理由を聞くと、「見慣れなくて不自然」、「怖い」、「清潔感がない」などの意見が出、一方の「ある」とした人からは、「スポーツをしている際に白マスクをすると病人に見える」、「外での作業中、白マスクをしているとすぐに汚れが目立ってしまう」、「マスクについた化粧が目立たない」といった回答が並んだ。  このことから、日本人が黒マスクに抱くイメージは、依然、どちらかというと否定的な意見が強いのだが、「余計な情報を隠す」という面から考えると、ことのほか黒マスクは白マスクよりも合理性が高いといえる。  韓国人の間では先にも述べた通り、黒マスクが日本以上に市民権を得ている。先日、1年ぶりに韓国の街並を歩いてみたところ、マスク使用者の約3割が黒マスクだった。  数年前までは、マスクをしているのは芸能人や有名人くらいしかいないと言われてきた韓国だが、昨今、同国でも「ミセモンジ」と呼ばれる中国からの黄砂やPM2.5、PM10などの大気汚染が深刻化。日本に負けず劣らぬ「マスク大国」になってゆく過程で、社会的影響力の大きいKポップアイドルらが黒マスクを使用し始めたのが、今の韓国のマスクの「2色化」を構築したと言われている。  そんな彼らに「黒マスクにするメリット」を聞いてみたところ、若い女性からは「黒マスクをしていると肌が白く見える」、「黒いマスクで輪郭を隠すことで小顔に見える」といった意見が多数。  しかも、この「小顔効果」においては、“装着ポジション”は口元ではなく、終日「顎」。「ダイレクトに顔の輪郭が隠せるから」と、現在韓国の女子中高生の間では絶賛流行中の付け方なのだという。こうなれば、もはやそれは「顎バンド」。「伊達マスク」ですらない。  一方、男性ビジネスマンからは「口臭予防」といった声がよく上がった。韓国の黒マスクには竹炭や活性炭入りを謳う製品が多く、ニンニクを日常的に食べる韓国人にとって、黒マスクは機能性の面からも積極的に選ばれているようだ。  こうして各国、様々なマスク事情がある昨今だが、筆者がNYから日本に帰国して再びマスクの集団に紛れていると、ふとあることに気付く。  全体のマスク人口と比べると、「接客スタッフ」のマスク姿が明らかに少ないのだ。  先日、注文していた商品を受け取りに、某大手メガネ店に足を運んだところ、「メガネが曇らないマスク」を販売するすぐ隣で、リズミカルに鼻をズルズルさせる店員が目についた。  日本は「マスク大国」であるのと同時に、客が神とまで崇められる「超おもてなし大国」でもある。そんな中、接客スタッフがマスクを“本来の用途”で使用していたとしても「笑顔が見えない」「何を言っているのか聞き取りづらい」といったクレームが寄せられるとして、接客時のマスク使用を禁じている店が多いのだ。  前出のメガネ店の店員も、「マスクはよほどのことがない限り装着禁止。どうしても必要な際は、お客様に理由を説明し、お断りを入れる」と話す。  しかしその一方、「何が理由で鼻をすすっているのか分からないから、とりあえずマスクはしていてほしい」とする客も少なくなく、特に飲食スタッフに対しては、「(食事の乗った)トレーの真上でしゃべるのだから、マスクはするほうがマナー」、「会話をほとんどしない厨房がマスクをして、よく話すレジやホールスタッフがマスクをしないのはおかしい」と考える消費者は、店の方針に反して意外に多い。 「マスクをしてまで仕事を頑張っているように見える」ことに、魅力すら感じてしまう日本。もしかすると、こうした簡単に学校や仕事を休めない社会だからこそ、日本でマスクがここまで受け入れられたのかもしれない。  マスクに対する印象・使用用途には各人違いはあるかもしれないが、とりあえず筆者は明日、ピンクのマスクを買いに行こうと思う。 【橋本愛喜】 フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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