彼以外にも、アンチへの対処を公表する著名人は増えています。横浜DeNAベイスターズの井納翔一投手が家族を非難されたことを理由に200万円近い訴訟を起こしたのがきっかけで、SNS上では「自分ならどうするか」を語る人が増えました。
どちらかというと男性の方が強気な傾向にあるようですが、女性では、作家のはあちゅうさんが「#Metoo」運動をきっかけに寄せられた心無い批判に対し、朝日新聞のインタビューで「人生で最も心ない言葉を浴びた」と語っています。訴えてやる! というより、誹謗中傷の嵐が過ぎ去るのを忍ぶ力が感じられました。
「モテクリエイター」として人気の元アイドル、菅本裕子(ゆうこす)さんも、様々なインタビューでアンチについて話しておられますが、いずれも「つらかった」けど「ポジティブにとらえる」など、柔らかい表現を多用しています。
私も、アンチに対して強い言葉は吐けません。あいつら、1人じゃなんにもできないくせに掲示板に集まるときだけは元気になって何やらかすか分からないし迷惑すぎて気持ち悪いんだよとは思いますが(吐いてるじゃないかというツッコミはさておき)、訴訟を起こすとしても裏でコソコソやると思います。
過去にはストーカー被害もありましたが、警察に相談してもダメだったので、自分の身は自分で守るしかないと諦めています。
はあちゅうさんやゆうこすさんと自分を同列に語るのは乱暴かもしれません。が、私も含め、女性の方がアンチに対して弱気にみえる理由は、アンチへの恐怖が男性よりもやや強いからではないでしょうか。
西野さんは、交流会に来た元アンチを「ファンですよね」と癒やしていましたが、あれは見方を変えればストーカーだと思うんです。
西野さんを潰すことが生きがいで、西野さんを憎むことを通じて、友達もできたし、人生が充実していた。でも、アンチ活動を実質的にやめたら天涯孤独になったから、寂しかったから……わざわざ近くまで来ちゃった!!って、メンヘラ恋人というか、ファンよりもストーカー寄りですよね。けっこうエグいラインに来ている。
あまり性別で分けるのは良くないですが、もしアンチがストーカーになったらと案ずると、女性クリエイターは「泣き寝入りなんてしねぇからな!」と強気になりきれないところがあるんじゃないでしょうか。「怖い」「ツラい」としか言えないんじゃないでしょうか。
警察庁の資料によると、年間2万2737件のストーカー被害のうち9割は女性で、検挙された内容は住居侵入や脅迫などが圧倒的多数です。もちろん男性がストーカー被害を訴えづらい風潮はあるでしょうが、それでも「女性が9割」の背景には何らかの事実があるはずです。
フリーで活動していた女性アイドルが、元ファン(アンチともいえる)に刺された事件は、メディアで生々しく報じられました。
もちろん、匿名掲示板でのストーキング行為は女性がしている可能性も大きいですし、男性YouTuberへのストーカー容疑で女が逮捕された事件もあるのでなんとも言えませんが……しかし統計的な事実もある中で、女性はどちらかというとアンチに怯えがちになるのだと思われます。
「元アンチ」のファンと向き合う西野さんは、ある意味振り切れているし、素晴らしい。でも、同じことを女性有名人ができただろうかと考えると疑問なのです。
アンチへの向き合い方には、個人の性格(強気or弱気)や職業(アイドルor芸人or作家など)によるバイアスに加え、LGBTを含むジェンダーバイアスがあることを忘れてはいけません。誰もが「西野司祭」にはなれないからこそ、彼の行動は称賛されるのです。
<文・北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」