李潤澤氏のことを報じる韓国紙「ハンギョレ新聞」
日本のメダルラッシュもあり、盛況のうちに終わった平昌冬季オリンピックであるが、時を同じくして韓国では、「MeToo運動」の極寒の嵐が吹き荒れてもいた。
「MeToo運動」とは、米・ハリウッドの映画プロデューサーによるセクハラ疑惑が報じられたタイミングで、女優のアリッサ・ミラノが同じ被害を受けたことのある女優達に向け「Me too」と声を上げようとTwitterで呼びかけたことを端緒として、多くの著名人を始めとした人たちが、「私も同じだ(Me too)」とセクハラ被害を告発し始めたもの。
1月7日のアメリカ・ゴールデン・グローブ賞授賞式では、セクハラ撲滅を訴えるキャンペーン「タイムズアップ」(もうおしまい)を合言葉に、ニコール・キッドマンやナタリー・ポートマンら数多くの有名女優たちが、黒いドレスを着てその意志に賛同した。
韓国での「MeToo運動」において、最大の衝撃となったのが、韓国を代表する劇作家であり演出家である李潤澤(イ・ユンテク、66)に対する告発である。釜山にある「演戯団コリペ」という劇団の主宰でもあった李は、韓国の演劇賞の数々を受賞し、韓国演劇界においては重鎮中の重鎮と言われる人物である。
李の劇団「演戯団コリペ」のほとんどの団員は共同生活を行っており、李は夜ごと女性団員にマッサージをさせ、時には性的な暴行を加えていた。
その要求に応えない劇団員は、稽古中に皆の前で罵倒したり、小さな役に配役を変更したりと「報復」を行った。劇団員たちのほとんどが、その現状について知っていたが、圧倒的な権力で劇団を支配する李の前には沈黙を守り、見て見ぬふりをするしか無かったと言う。
特に凄惨だったのは、李の性的暴行に関する4人目の告発者となった女優・金某氏の告発だ。
金氏は、2003年から2010年までの8年間、李の「演戯団コリペ」に在籍していたが、他の女性たちと同じように、李のマッサージを行い、一人でマッサージをしている際に性的暴行をされたと告発した。
李の暴行により、金氏は妊娠。中絶を余儀なくされ、李から200万ウォン(約20万円)を渡され「すまなかった」と言われたという。
しかし、その後も李の暴行は続き、心を患った金氏は劇団を辞め、実家に帰った。今でも精神的な治療を受け続けている。
韓国演劇演出家協会とソウル演劇協会は19日、李を最高水準の懲戒として「除名」した。また李に与えられたすべての演劇賞は剥奪された。演戯団コリペは解散し、韓国演劇界を牽引した李の砂上の楼閣は跡形もなく消え去った。