日本も参加のGoogle主催「月探査レース」、なんと勝者は「なし」。それでも失われぬ意義

なぜどこも月へ行けなかったのか?

 なぜ、どのチームも月へ行けなかったのだろうか? そこには大きく資金とロケットの問題がある。  月探査機を開発するには、開発費や人件費などに多額の資金が必要になる。とても有志が手弁当でできるものではない。いくら33億円もの賞金が与えられるとはいえとても足らず、そもそも優勝しなければもらえないため、あてにはできない。

「グーグル・ルナ・Xプライズ」は、民間による月探査を目指した世界初のレースだった Image Credit: NASA

 つまり各チームは、投資や支援を受けるなどして、自力で賞金額以上の資金を用意しなければならなかった。だが、数十億円もの金額をぽんと出せるところはなかなかなく、また月探査のような事業はお金になりにくいため、投資家も集まりにくかった。  なにより大きな問題だったのは、月まで行くためのロケットの調達である。  月探査機は造れても、ロケットまで造るのは現実的ではない。そのためロケットをどこかから買う必要があるが、その販売価格は安いものでも30億円、標準的なものだと70億円から100億円もする。つまりロケットの調達費だけで賞金総額を超えてしまう。そのため、そもそも契約すらできなかったり、契約寸前に資金調達に失敗してご破産になる始末だった。  中には、一発逆転を狙って、ベンチャー企業が開発中の超小型ロケットを使うことを決めたチームもある。ベンチャー製かつ超小型なので数億円と安価な反面、開発が遅れる可能性があり、信頼性もないため失敗する可能性もあった。  そして実際、賭けは悪いほうに転がり、ロケットの開発が遅れたことで、3月の期限までに月探査機を打ち上げることは叶わなかった。  こうして、全チームが地球から飛び立つことすらできず、GLXPは終わりを迎えたのだった。

月まで探査機を飛ばせるロケットは、安いものでも30億円、標準的なものだと70億円以上する Image Credit: SpaceX

月世界へ動き始めた民間企業

 しかし、GLXPの意義がまったくなかったというわけではない。  近年、日本でも「宇宙ビジネス」という言葉がよく聞かれるようになったが、いまや宇宙開発は、国家が威信をかけて行う事業から、民間企業がお金儲けのために取り組む事業となりつつある。そしてそのひとつに、月などの天体の探査や、移住を目的としたビジネスもある。  とくに月は地球から近く、水もあるといわれていることから、比較的探査や移住がしやすい。あたかも米国で起きたゴールドラッシュのように、ひとたび月で水の採掘や、物資や人間の輸送が始まれば、そこには新たなビジネスが生まれることになろう。  実のところ、GLXPの究極の狙いは、こうした月・惑星探査をビジネス化するための土壌を育て、実際に取り組む企業を創り出すことにあった。レースそのものは、そのための通過点、あるいは一里塚だったのである。そしてその狙いは見事に軌道に乗った。  たとえばムーン・エクスプレスは、GLXPの終了後も独自に、月探査や、月への物資や科学機器の輸送をビジネス化する構想を打ち出している。いまのところ、GLXP用に開発していた探査機を、2019年ごろに打ち上げるとされる。

ムーン・エクスプレスが考えている月探査機 Image Credit: Moon Express

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月到着を諦めないことの意義
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