「#Metoo」「ブラック・ライブズ・マター」を活かせなかったグラミー賞が寒かったワケ

圧倒的だった批評面での差

 ロードが獲っても、ケンドリック・ラマーが獲っても、シンボリックな意味を持つ状況。受賞スピーチでは、いったいどんなことを話すのか……。ところが、蓋を開けてみると年間最優秀アルバムはブルーノ・マーズの手に渡った。  マイケル・ジャクソンやプリンスなき今、最新のプロデューサーを起用し、古きよきファンクやR&Bを現代版にアップデートし続けるブルーノ・マーズは貴重な存在だ。歌もギターもダンスも一流で、ジャンルが細分化するなか、王道のポップスで人々を魅了する彼の才能は疑う余地もない。しかし、今この瞬間、2018年のグラミー賞を受賞する必然性や意味合い、何かの象徴性があったかと言えば「ない」と断言できるだろう。実際、名前を呼ばれた瞬間は本人も困惑した表情を見せていたぐらいだ。  果たしてこの結果は妥当だったのか? 政治・社会的背景を抜きに検証してみよう。まずは批評面。さまざまなサイトのレビューを集積・数値化している「メタクリティック」では、下記の通り。 ブルーノ・マーズ「24K Magic」(70点) ロード「Melodrama」(91点) ケンドリック・ラマー「DAMN.」(95点)  ロードとケンドリックは僅差だが、ブルーノ・マーズはだいぶ差をつけられている。続いて、英米音楽雑誌の年間ランキングを見てみよう。(ブルーノ・マーズは発売時期により、’16年のランキング) ブルーノ・マーズ「24K Magic」(英『NME誌』:圏外、米『ローリングストーン誌』:圏外) ロード「Melodrama」(英『NME誌』:1位、米『ローリングストーン誌』:2位) ケンドリック・ラマー「DAMN.」(英『NME誌』:3位、米『ローリングストーン誌』:1位)  こちらも差は歴然。ポップスだから不利……と言えなくもないが、ビヨンセやリアーナ、テイラー・スウィフトやレディー・ガガがランク入りしていることを考えると、その言い訳はやや苦しいだろう。  しかし、いくら批評家からの評価が高いとはいえ、聞き手が楽しめなければ意味がない。では、売り上げではどうか? 米ビルボードのチャートでは下記の通り。 ブルーノ・マーズ「24K Magic」(最高位:2位、トップ200入り期間:62週) ロード「Melodrama」(最高位:1位、トップ200入り期間:30週) ケンドリック・ラマー「DAMN.」(最高位:1位、トップ200入り期間:41週)  こちらは最高位ではほぼ互角。発売時期が違うのでトップ200位に入っている期間で優劣をつけるのは難しいが、いずれもロングセラーになっている。ちなみに、取材時点での順位はブルーノ・マーズが10位、ケンドリックが6位、ロードが152位だった。このデータを見る限り、売り上げではブルーノ・マーズとケンドリックがロードを引き離していると言っていいだろう。
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アカデミー賞はどうなる?
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