夏野剛氏
日本経済が回復の兆しを見せ、企業業績も軒並み好調と報じられる一方、海外では『MADE IN JAPAN』は失落。お家芸であったはずの家電分野も海外メーカーにシェアを奪われている。その理由を夏野氏は、“当たり前の経営思考”の欠如と説く。そして、日本企業に多く見られるこの“病”の処方箋は「意外とシンプルだ」とも。成長する企業と衰退する企業の違いは? これからの時代に求められるビジネスマンとは?「ニコニコ動画」を黒字化させた男が、その答えを語り尽くす!
NTTドコモ在籍時にi-modeを立ち上げ、年間1兆7000億円の収入に育て上げた男、夏野剛氏。2001年にビジネスウィーク誌にて「世界のeビジネスリーダー25人」の一人に選出され、’10年には不可能と言われたネット動画サービスの黒字化を『ニコニコ動画』で達成、現在KADOKAWA・ドワンゴを筆頭にセガサミーホールディングスなど7社の上場企業の取締役を務め、その手腕を振るう。
そんな夏野氏に、企業の能力を見抜く方法を聞いてみた。
夏野:まず初めに、世の中には株式相場が企業の実力を反映していると勘違いしている人が多くいます。最近は短期的に企業の株価が上昇していることから、「会社が成長している」と思う人もいるでしょうが、株式相場は「将来的な成長の可能性」とは無縁のところで乱高下していたりします。故に、短期の株式売買は極めて難しく、運頼みのギャンブル的な要素も多くなりがちです。となれば3~5年の中長期的な投資となりますが、そのためには、企業が本当に成長できるかを見抜く必要がある。そこでポイントとなるのが、その企業が「当たり前の戦略思考」をもって経営ができているのか、ということ。これを見極めれば、5年後の企業の姿も想像できるようになります
――具体的には、どのようなものでしょうか?
夏野:簡単に言うと、「その企業が何で儲け、誰が対価を支払っているか。そして対価を払う人の目線で製品を作っているのか」を見抜くことです。例えば、スマホの新製品ならば、「ユーザーにとって便利な機能が付いているか? 不満に思っていたデザインが改良されているか?」などを見るということ。でも、最近のメーカーが発売した端末を見ると、ユーザーにとって必要のない機能が前面に押し出されていたりする。例えば、最新のサムスンのスマホ(※)は縁にディスプレイがあるのですが、どう見てもユーザーにとって必要な価値とは思えない。ディスプレイを大きくしたiPhone6 Plusも同様、ユーザー視点からかけ離れてしまっている。
夏野:これは、業界内での競争に目が行ってしまい最新のテクノロジーを使うことが目的化、それがユーザーに対する価値を上げることだという勘違いが原因でしょう。サムスンの場合だと、曲面ディスプレイを搭載できるようになったから、というだけの理由ですね。100インチのテレビを求める消費者がいないのに、作ってしまうのと同じことです。こういった製品を作る企業は、今後の雲行きが怪しい感じがします。ユーザーではなく競合他社をベンチマークすると、「ウチの製品には、このラインナップと機能がない」という状況に陥る。特に日本の家電メーカーでは顕著で、ひとつのメーカーから各サイズで機能が違うテレビを何種類も発売したりする。そのラインナップはほんの少しだけ機能が違うだけなので、ユーザーは迷ってしまい「今はいいか」と購入をやめてしまう。これは「ラインナップを揃えておかないとユーザーの細かいニーズに応えられず商機を失う」という供給側の恐怖感から来るものでしょう。ユーザーが必要としない3D機能が搭載されたテレビがありましたが、結果はいわずもがな、ですよね。こんなことが起こる理由は、競合他社と横並びにすることで売れなかったときの言い訳を作れるからです。
⇒vol.2につづく http://hbol.jp/15693
(※)最新のサムスンのスマホ
「GALAXY Note Edge」のこと。右サイドに回り込んだエッジクリーンが搭載され、サブのスクリーンとしてアプリ起動やメールなどのチェックが可能になっている。「便利・革新的」、「持ちにくい」など評判は賛否両論
●夏野 剛 著『
「当たり前」の戦略思考』(扶桑社刊 1300円+税)
「アマゾンvs楽天」という構図は間違い!? AppleやLINE、ドコモなど有名企業のビジネスを徹底分析。「勝つためのビジネス思考法」をインプットできるビジネスマンのバイブル的一冊
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