甲府市民の願いやいかに……中心部と郊外で広がる「イオン格差」
瀕死状態にあったお荷物再開発ビル「ココリ」を再生することでようやくイオンモール甲府昭和の増床を認められたイオン。
とはいえ、テナントの多くを自社グループで固めたココリと、増床棟に数多くの有名チェーンを誘致した甲府昭和とでは、イオンモールによる「力の入れようの差」は歴然であり、「
イオンが海老(ココリ改装)で鯛(イオンモール増床)を釣った」という見方をされるのは当然だ。
ココリとイオンモール甲府昭和の「スペック比較」。当然ながらココリはイオンモールには歯が立たない。なお、イオンモールの無印良品は甲府市中心部にある「山交百貨店」から移店したもので、イオンモールは中心部に出店しているテナントも奪い取りつつある
甲府市中心部からイオンモール甲府昭和までは路線バスで約30分かかる距離であり、車を持たない住民にとって気軽に行ける場所ではない。
10月末の取材時、ココリに買い物に来ていた甲府市民の一人は「ココリは物足りないかな。昭和のモールが羨ましい」と正直な気持ちを吐露。かつて山梨県が実施した買い物環境に関するアンケート調査でも「甲府市にもイオンモールみたいなものがあったら」という甲府市民の声が多く聞かれており、郊外の巨大モールに憧れを抱く一方で、同じイオンが運営するココリの物足りなさに不満を覚えてしまう甲府市民は多い。
買い物環境の改善を望む甲府市民の中には「甲府にもイオンモールがあったら」という声やココリについての不満が聞かれた。(山梨県調べ、資料は2016年2月公表)
また、イオンモールの手で一時は全区画が埋まったココリだったが、今年1月には同社が誘致した「築地銀だこ」が2年足らずで撤退するなど、11月現在で3区画が空き床に逆戻り。かつてジュエリーモールが核店舗であった頃の「惨状」と比べたらマシな状況には変わりないが、イオンモール甲府昭和の増床リニューアルが中心市街地に与えた影響は少なくなく、ココリの利用者からは「今後大丈夫なのか」という不安の声も上がり始めている。
その一方で、増床リニューアル後のイオンモール甲府昭和には、ココリから撤退した「築地銀だこ」のほか、「H&M」、「ZARA」、「GAP」といった甲府市にはないファストファッション店が集結するなど、ココリとは対照的にさらなる充実を見せている。
ココリではイオンモールの再生によって一時は埋まった空き床がここにきて再び発生しており、利用者からは不安の声も聞こえ始めている
山梨県最大のイオンモール開業から6年、同社は紆余曲折を経て甲府市中心部と郊外の昭和町の商業地図をイオン一色へと塗り替えることに成功した。お荷物再開発ビルの再生は流通最大手だからこその成せる技であったと言えるが、郊外モールと都市型ショッピングセンターという、かつて敵対関係であった両者をともに繁栄させ続けていくことは困難を極めるであろう。
富嶽を望む宝石の国で、イオンは今後どういった未来図を描くことができるのだろうか。
大いに賑わいを見せるイオンモール甲府昭和。富士山を望む同店のロゴは特産の宝飾品をアピールするため「キラキラ」があしらわれ、こうした小さな部分にも地域密着への姿勢が見える
<取材・文・撮影・図表制作/佐藤(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
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