MLB選手会の公式サイトより
日本ハムからポスティングシステムでメジャー移籍が確実となった大谷翔平選手の去就が注目を集めているが、このポスティングシステム成立までの過程で大きな影響力を発揮したメジャーリーグ(MLB)選手会が「世界一強い労働組合」と呼ばれているのをご存知だろうか。
1966年に創設されたMLB選手会はこれまで3度のストライキを決行し、たびたび労使間闘争を繰り広げては選手の大きな権利を勝ち取ってきた。その結果、充実した年金制度、医療制度、福利厚生制度などに手厚く保護されたMLB選手は、スポーツ界ではトップクラスの労働環境に恵まれているといっていい。
実はメジャーの取材をしている記者も、このMLB選手会には泣かされたことがある。メジャーでは試合の前後にメディアが選手のクラブハウスに入って取材をしていいのだが、選手会の要求によって試合前にクラブハウスに入る時間が大幅に短縮されてしまったのだ。取材時間を削られることはメディアにとっては死活問題でもあり、変更が決まったときはひどく落胆したものである。
この選手会が、新ポスティングシステム制定の際でも力を発揮したのだ。
「新ポスティングシステム」制定直前に待ったをかけたMLB選手会
この制度は今年10月31日に一度失効しており、新たな制度を制定しなければ大谷の今オフ移籍が実現できなくなるという切羽詰まった状況の中、日本プロ野球(NPB)とMLB機構が基本合意までこぎつけた新制度案に選手会が待ったをかけ、成立が難航した。11月21日にようやく合意にこぎつけたが、それまで3者間でぎりぎりの攻防が続いていた。まさに「世界で最もパワフルな労働組合」の辣腕ぶりが垣間見えた新ポスティングシステム誕生劇だった。
選手会が新制度案に待ったをかけた大きな理由は3つあった。
第一に、ポスティングを申請する期間が従来のままでは11月1日から翌2月1日までと長すぎる点。第二に、新システムではポスティングで移籍する選手がMLB球団と合意した契約金の何パーセントかをこれまで所属したNPB球団に譲渡金として支払う方式で、その契約金が少なければNPB球団への譲渡金も減るため、契約が決まり金額が明らかになった時点で少ないからといって移籍を取り消す事態になるのは選手会としては認められないという点。第三に、大谷の移籍が米球界で最も大きな注目を集めているため、大谷の手続きが早く進まなければ他のFA選手に影響を及ぼすという点だ。
米ヤフースポーツのコラムニスト、ジェフ・パッサン氏によると、ポスティング申請期間に関して、選手会が最初に提案したのは11月1日から11月15日までというものだった。もとの2月1日までという期間に比べると6分の1にまで短縮するよう求めたというわけだ。これに対してNPBは12月31日までの2か月間にしてほしいと譲歩した。だが選手会のカウンターオファーは12月1日までという1か月の期間。NPB側がやむなく12月15日まででどうかと提案し、最終的に11月1日から12月5日までという申請期間に決定した。選手会側はこれについて、我々の大きな勝利だと喜んだという。